遊園地の日、巽に助けられて泣いたところまでは覚えている。
けれど、次に気が付くと電車の中で、私の隣には大樹くんがいた。

……どうして巽じゃなくて大樹くんが? そう思ったことが顔に出ていたんだろう。


『巽に、頼まれたんだ』


そう苦笑交じりに答えてくれた。

次に目が覚めるともう自分の部屋にいて、丁度隆太が桃缶を運んできてくれたところだった。


「あ、ねーちゃん起きた?」

「……起きた」


重い体をゆっくりと起こして、隆太から桃缶を受け取る。
今、何時だろう。だいぶ寝ていた気がするけど……。


「ありがと」

「かーちゃんに頼まれただけ」


ぱくっと桃を口に入れると、冷たくて気持ちがいい。
食欲はないけど、これなら食べられそうだ。

もぐもぐと口を動かしていると、隆太が私をじいっと見てくる。


「なに?」

「いや、さっき……巽に会ったよ」


ぴくり、と、私の意識に反して体が動いた。


「お大事にって」

「そう……」

「じゃ、無理すんなよー」


私の返事はどうでもいいのか、隆太は私の部屋から出て行った。

……巽は、ずっと遊園地で遊んでいたんだ。
私を、大樹くんに任せて、沙知絵と……一緒に過ごしていたんだろう。

ぽろっと涙が零れて、慌てて手のひらで拭った。
なんで、こんなに涙もろいんだろう。巽が関わると、いつも知らず知らずのうちに、理由の分からない涙が落ちる。