ほんっとに、なんでこいつはこんなにバカなんだ。
朝っぱらから青い顔してんのになんで帰らなかったんだ。どうみたって体調不良だろ。

しまいには階段から落ちそうになってるし。


「とりあえず帰れ、お前」

「……うん」


美咲の肩を持ってそう告げると、珍しく素直な言葉が帰ってきた。
触れて思ったけど、熱もすげえあると思う。顔真っ赤だし。

よくここまで耐えたなお前。
泣くほどしんどいならさっさと帰ればよかったんだ。

……そんなに、大樹と会いたかったのか。


「俺、こいつ送るわ」


力が入んねえんだろうなと思う美咲を見て、いつの前にかそんなことを口にしていた。

いや、でもまあおかしなことでもねえだろ。
隣の家だし、こんなやつひとりで帰すわけにもいかねえし……。

美咲の体を引き寄せて、歩き出そうとしたとき。


「待って巽。俺が、送るよ」


大樹が俺の肩を掴んで引き止めた。


「俺、巽の家知ってるし。巽の家の隣だろ? 巽はみんなと一緒にいていいよ」


……なんで、お前が?
そう思ったけれど、断る理由は俺にはない。
ただなんとなく、“嫌だ”って、思っただけ。

大樹は、気付かなかったじゃねえか。美咲が無理して笑っていることにも、隣で階段から落ちそうになっていたって、助けたのは、少し離れていた俺。

俺が引き止めてもこいつは帰らなかったけど、お前が気づいて止めてたら、こんなに無理しなかったんじゃなかったのかよ。

でも、そんなこと、言えるはずがねえ。