「草薙どの。そなたには、娘の専属執事になってもらう」

 新しい住み込みのバイト先でそう告げられたのは、春麗らかなエイプリルフールの日だった。

「お嬢様の専属……ですか」

「左様。あれももう15だ。そろそろ自分専用の執事がいてもよい年頃だと思うての」

 目の前にいる、和装の男の名は御剣兼定(みつるぎかねさだ)。御剣財閥の現当主であり、この屋敷の主。

 がっちりとした体躯に鋭い眼光、時代がかった口調は、戦国時代の武将を髣髴とさせる。

 屋敷が純和風の武家造りという事もあり、本当に戦国時代に来てしまったような錯覚を覚えた。

 ここは一体いつの時代の日本ですか、と思わず心の中でつぶやいた。

 そんなオレの思考を中断するように、ししおどしの音が響く。

「まだまだ子供で、至らぬところも多いが、宜しく仕えてやって欲しい」

「かしこまりました、旦那様」

 内心の突っ込みは億尾にも出さず笑顔で言い、恭しく一礼する。


 かくして、オレ、草薙陣(くさなぎじん)は、武家屋敷に住まう姫君の専属執事になったのだった。