ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 帰国後、七海と大和は西九条弁護士事務所を訪ね、事後報告を済ませた。
 
「ちょっと待て。その急展開はなんだ?」
 西九条弁護士事務所で大和と七海の『婚約報告』を聞かされた西九条は、こめかみを強めに押さえながら盛大なため息をついた。

「まだ七海ちゃんはニ十歳なんだから、そんなに早く結婚しなくても……」
 これからもっといい出会いがあるかもしれないと揺さぶる西九条を大和は睨む。

「あんなに『俺はふさわしくない』とか言って逃げ回ってたくせに、戻ってきた瞬間これか」
「孝仁、余計なことは言うな」
 バツが悪そうにする大和をさんざん揶揄ったあと、西九条は「おめでとう」と笑った。

「で、森口には?」
「これからだ」
「え? どうして西九条さんも真くんの名前を出すんですか?」
 キョトンとする七海と目が合った西九条は天を仰ぎながら、はぁ~と盛大な溜息をつく。

「無自覚か~」
「だから早く結婚するべきなんだ」
「確かに」
 今なら大和のその暴走を全面支持するとまで言う西九条に、七海は首を傾げた。

「……父親の話はするのか?」
 西九条の質問に、大和はギュッと七海の手を握る。

「二人で相談したが、叔父さんにも、もちろん森口にも伝えないでおこうと思う」
 森口はいつか知ってしまうかもしれないが、今は伝えないでおくと言う大和に七海は小さく頷いた。
 
 大和の父親は『医療事故を起こした医師』。
 七海の父親は『その事故で命を落とした患者』。
 つまり二人は加害者の息子と、被害者の娘だ。
 
 実際に医療事故を起こし、大和の父親に擦りつけた人物はようやく逮捕されたが、真実が白日の下にさらされるのにはまだ時間がかかるだろう。
 叔父さんはもちろん、真にも、他の誰にも言わないでおこうと二人で決めた。
 
 大和の側にいたい。
 その気持ちを過去の因果と絡めたくなかったからだ。
 
「そっか。うん、二人でそう決めたなら、それが一番いいと思う」
 二人で乗り越え、周囲への配慮まで見せる姿は、もう立派な『夫婦』のようだと西九条は笑った。

「大和、七海ちゃん。幸せになれよ」
「あぁ。言われなくても、世界一幸せにする」
「ありがとうございます。西九条さん」
 大和の言葉に、七海は胸を熱くしながら笑顔を返す。
 繋がれた手から伝わる体温はどこまでも温かく、二人の未来を遮るものはなにもなかった。

    ◇
 
「……え? は? もう、結婚……?」
 あまりにも衝撃的な言葉に、真は何度も七海と大和の顔を確認した。