ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 翌日、七海は大和にすべてを教えてもらった。
 大和の父は冤罪だったこと、真犯人は捕らえたが、時効の壁があり賠償請求は難しいこと。
 七海の父は手術のときに未承認の薬を使用され、身体が拒否反応を起こしたこと。
 大和はできるだけ専門用語を使わずに七海に説明してくれた。

「七海に初めて会ったのは、父の最初の裁判の日だった」
 七海はまだ9歳。大和は17歳だ。
 
『お父さんは病気だったんでしょ? なんであのお医者さんが怒られてるの?』
 憔悴しきった母親と一緒に裁判所に来ていた七海が口にした言葉。
 医者を目指していた大和は、七海の言葉がきっかけで医者と弁護士の両方を目指すと決めた。
 
「研修医としてアメリカに行ってみないかと声をかけられたのは、七海が駅で倒れたあの日だった」
 あの子が成長したらこのくらいの年齢だろうかと思ったら、放っておけなかった。
 まさか本人だとは想像すらしていなかったが。
 
「でも、行く前に教えてほしかったです」
「……どうしても言えなかった」
 真実を知ることが、救いになるとは限らない。
 それに、カルテの保存期間は五年。
 こちらに来ても何も証拠が見つからない可能性も高かった。
 加害者の息子が七海を幸せにできるはずがないと、逃げることしかできなかったと大和は七海に謝罪した。

「相談してもらえるくらい、しっかりした大人になります!」
 今はまだ何も役に立たないけれどと言いながら、七海は少しだけ身を乗り出し、大和の目を覗き込む。
 大和は愛おしさを堪えきれないと、七海に何度も唇を寄せた。
 
「日本とロサンゼルス、どちらに住みたい?」
「私、読めないし話せないし、英語は絶望的です」
 慌てる七海の反応を予想していたのか、大和はふっと優しく目を細めた。
 
「一生、俺の腕の中に閉じ込めておくしかないな」
 さらりと言ってのけた大和の言葉に、七海の顔が赤く染まる。
 
 重い過去も、償いきれない罪悪感も、これからは二人で分け合っていけばいい。
 十一年の歳月を経て、二人の止まっていた歯車がようやく動き出す。
 
「愛しているよ、七海」
「私も、あ、愛して……ます」
 言い慣れない言葉に照れた七海は、大和の胸に顔を埋めながらも幸せな気分で胸がいっぱいだった。