日本を発つ前に電源を切ったスマートフォンを起動した瞬間、メッセージや電話の着信履歴の数字が表示された。
『ナスの煮びたしが上手くできました!』
『モンブランは難しいです』
『研修がんばってくださいね』
歪なモンブランは、マロンクリームが口金から綺麗に出なかったのだろう。
ワタワタと慌てながら作っている七海の姿が容易に想像できた大和は目頭を押さえた。
『七海が心配しているので、メッセージを送ってあげてください』
七海の従兄の森口は、この機会に七海を支えて口説けばいいのに。
『おまえ黙って行ったな! 病院名くらい言って行けよ!』
『無理するなよ』
『何かあったら連絡しろよ』
自分の従兄の孝仁も、俺のことなんか放っておけばいいのに。
本当におせっかいで困る。
日本との時差は17時間。
一度だけ孝仁に報告しようと大和はスマートフォンを鳴らした。
『大和! おまえなー』
たった3ヶ月しか経っていないのに、孝仁の小言にホッとするなんてどうかしている。
「……終わった。全部」
吐き出した言葉は、自分でも驚くほど掠れていた。
受話器の向こうで、孝仁が息を呑む気配がする。
『おつかれ。……よくやったな、大和』
その一言に、大和は強く目を閉じた。
「じゃあ……」
『おい、待て。切るな! 12月24日!』
「は?」
突然の意味不明な日付に大和は思わず気が抜けた声を出す。
『クリスマスイブ! 空港に迎えに来い!』
「なんで」
『来なかったら七海ちゃんにマンション譲渡できないからな! 絶対来いよ!』
「譲渡できないって」
『おまえさー、ちゃんと最新の手順確認しろよな』
書類不備だと言われた大和は目を見開いた。
「そんなはずは」
『と・に・か・く! サインしに空港に来いよ。絶対だからな!』
来ないなら日本に戻って自分で手続きしろと言われた大和は溜息をついた。
飛行機の時間はまた連絡すると言いながら、日にちだけを孝仁は何度も連呼する。
「わかった、わかった。24だな」
『そのときに詳しく今回のことを教えろよ』
「あぁ」
口うるさい従兄との電話を切った大和は、手の中のスマートフォンを見つめながら苦笑した。
どうやらこのスマートフォンを解約するのはもう少しあとになりそうだ。
大和は七海にメッセージを打とうかとカーソルを合わせたが、結局何も打つことができず、再び電源を切った。
12月24日。
ロサンゼルス国際空港の到着ロビーは、クリスマスを家族や恋人と過ごそうとする人々で溢れ、浮き足立った熱気に包まれていた。
大和は文字が切り替わる電光掲示板をぼんやりと見上げた。
こんなクリスマスにおせっかいな従兄の顔を拝まなければならないと思うと、溜息しか出ない。
到着ゲートの扉が開き、乗客たちが次々と流れ出してくる。
孝仁の姿を探していた大和は、こんな場所に現れるはずがない人物の姿に目を見開いた。
「……七海?」
あり得ない。七海がここにいるはずがない。
頭の中ではそう思っているのに、本人だったらいいのにと期待する自分の気持ちが止められない。
「大和さん!」
七海が大和の胸に飛び込んでくる。
あまりの衝撃に、大和は数歩よろめきながら小さな身体を抱きとめた。
『ナスの煮びたしが上手くできました!』
『モンブランは難しいです』
『研修がんばってくださいね』
歪なモンブランは、マロンクリームが口金から綺麗に出なかったのだろう。
ワタワタと慌てながら作っている七海の姿が容易に想像できた大和は目頭を押さえた。
『七海が心配しているので、メッセージを送ってあげてください』
七海の従兄の森口は、この機会に七海を支えて口説けばいいのに。
『おまえ黙って行ったな! 病院名くらい言って行けよ!』
『無理するなよ』
『何かあったら連絡しろよ』
自分の従兄の孝仁も、俺のことなんか放っておけばいいのに。
本当におせっかいで困る。
日本との時差は17時間。
一度だけ孝仁に報告しようと大和はスマートフォンを鳴らした。
『大和! おまえなー』
たった3ヶ月しか経っていないのに、孝仁の小言にホッとするなんてどうかしている。
「……終わった。全部」
吐き出した言葉は、自分でも驚くほど掠れていた。
受話器の向こうで、孝仁が息を呑む気配がする。
『おつかれ。……よくやったな、大和』
その一言に、大和は強く目を閉じた。
「じゃあ……」
『おい、待て。切るな! 12月24日!』
「は?」
突然の意味不明な日付に大和は思わず気が抜けた声を出す。
『クリスマスイブ! 空港に迎えに来い!』
「なんで」
『来なかったら七海ちゃんにマンション譲渡できないからな! 絶対来いよ!』
「譲渡できないって」
『おまえさー、ちゃんと最新の手順確認しろよな』
書類不備だと言われた大和は目を見開いた。
「そんなはずは」
『と・に・か・く! サインしに空港に来いよ。絶対だからな!』
来ないなら日本に戻って自分で手続きしろと言われた大和は溜息をついた。
飛行機の時間はまた連絡すると言いながら、日にちだけを孝仁は何度も連呼する。
「わかった、わかった。24だな」
『そのときに詳しく今回のことを教えろよ』
「あぁ」
口うるさい従兄との電話を切った大和は、手の中のスマートフォンを見つめながら苦笑した。
どうやらこのスマートフォンを解約するのはもう少しあとになりそうだ。
大和は七海にメッセージを打とうかとカーソルを合わせたが、結局何も打つことができず、再び電源を切った。
12月24日。
ロサンゼルス国際空港の到着ロビーは、クリスマスを家族や恋人と過ごそうとする人々で溢れ、浮き足立った熱気に包まれていた。
大和は文字が切り替わる電光掲示板をぼんやりと見上げた。
こんなクリスマスにおせっかいな従兄の顔を拝まなければならないと思うと、溜息しか出ない。
到着ゲートの扉が開き、乗客たちが次々と流れ出してくる。
孝仁の姿を探していた大和は、こんな場所に現れるはずがない人物の姿に目を見開いた。
「……七海?」
あり得ない。七海がここにいるはずがない。
頭の中ではそう思っているのに、本人だったらいいのにと期待する自分の気持ちが止められない。
「大和さん!」
七海が大和の胸に飛び込んでくる。
あまりの衝撃に、大和は数歩よろめきながら小さな身体を抱きとめた。



