大和がいなければ、私は今でも暗い泥の中に沈んだままだっただろう。
繋いだ手から伝わってくる体温とは裏腹に、ふと見上げた大和の横顔は、どこか遠い場所を見つめているようにも見えた。
「……大和さん?」
「なんだ?」
「いえ。……本当に、ありがとうございました」
もう一度お礼を言うと、大和はわずかに口角を上げながら七海の頭にぽんと手を置く。
ふと、違和感があったが、七海には何が気になったのかよくわからなかった。
「帰ったらすぐに書類を作るから見てくれ」
「はい。よろしくお願いします」
内容がOKなら叔父に送り、叔母の署名をもらい、公正証書にすると大和はこれからの予定を教えてくれる。
法的な手続きはすべて大和におまかせだ。
大和が「大丈夫だ」と言うのなら、もう何も心配することはない。
ようやく叔母の呪縛から解放された七海は、大和がある決意を隠していることにまだ気づいていなかった。
◇
「……おい、大和」
弁護士事務所の一室で、西九条は溜息をつきながら額を押さえた。
テーブルの上に置かれたのは、七海の叔母の署名入り債務承認弁済契約書。
これは叔母にいくら使い込んだかを認めさせ、それをいつまでに、どのような方法で支払うかを約束させた契約書だ。
叔父や真の肩代わりは禁止であること、叔母の給与明細を七海に見せることが明記され、さらに、今後は七海に一切関わらないという合意書にも署名をさせた。
「強制執行認諾文言付きの公正証書にしておいた」
公正証書にしておけば、万が一叔母が支払いを止めた際、裁判を起こさなくてもすぐに給料や預貯金を差し押さえることが可能。
これで七海が出した条件を叶えてやれたと、大和はコーヒーを飲みながら西九条に説明した。
「あー、まぁ、こっちはそれでいいとして」
西九条はトントンとテーブルの書類を叩く。
「これはダメだろう」
「贈与税や不動産取得税もかかるから、俺の名義のままあのマンションに住んでおいて、売却したくなったら、この書類をここに取りに来るように伝えてくれ」
権利証など必要書類一式を預かっておいてほしいと大和は西九条に頼む。
西九条は、再び溜息をつくと大和を見つめた。
「こんなことをされても、七海ちゃんは喜ばないよ」
「だろうな」
「アメリカに行くことは伝えたのか?」
「……まだだ」
言うつもりがなさそうな大和に西九条は呆れる。
「おまえの従兄として言わせてもらうが、おまえも幸せになっていいんだぞ」
「……そんなことを言うのは、孝仁だけだ」
大和はコーヒーカップをテーブルに置くと、逃げるように立ち上がった。
繋いだ手から伝わってくる体温とは裏腹に、ふと見上げた大和の横顔は、どこか遠い場所を見つめているようにも見えた。
「……大和さん?」
「なんだ?」
「いえ。……本当に、ありがとうございました」
もう一度お礼を言うと、大和はわずかに口角を上げながら七海の頭にぽんと手を置く。
ふと、違和感があったが、七海には何が気になったのかよくわからなかった。
「帰ったらすぐに書類を作るから見てくれ」
「はい。よろしくお願いします」
内容がOKなら叔父に送り、叔母の署名をもらい、公正証書にすると大和はこれからの予定を教えてくれる。
法的な手続きはすべて大和におまかせだ。
大和が「大丈夫だ」と言うのなら、もう何も心配することはない。
ようやく叔母の呪縛から解放された七海は、大和がある決意を隠していることにまだ気づいていなかった。
◇
「……おい、大和」
弁護士事務所の一室で、西九条は溜息をつきながら額を押さえた。
テーブルの上に置かれたのは、七海の叔母の署名入り債務承認弁済契約書。
これは叔母にいくら使い込んだかを認めさせ、それをいつまでに、どのような方法で支払うかを約束させた契約書だ。
叔父や真の肩代わりは禁止であること、叔母の給与明細を七海に見せることが明記され、さらに、今後は七海に一切関わらないという合意書にも署名をさせた。
「強制執行認諾文言付きの公正証書にしておいた」
公正証書にしておけば、万が一叔母が支払いを止めた際、裁判を起こさなくてもすぐに給料や預貯金を差し押さえることが可能。
これで七海が出した条件を叶えてやれたと、大和はコーヒーを飲みながら西九条に説明した。
「あー、まぁ、こっちはそれでいいとして」
西九条はトントンとテーブルの書類を叩く。
「これはダメだろう」
「贈与税や不動産取得税もかかるから、俺の名義のままあのマンションに住んでおいて、売却したくなったら、この書類をここに取りに来るように伝えてくれ」
権利証など必要書類一式を預かっておいてほしいと大和は西九条に頼む。
西九条は、再び溜息をつくと大和を見つめた。
「こんなことをされても、七海ちゃんは喜ばないよ」
「だろうな」
「アメリカに行くことは伝えたのか?」
「……まだだ」
言うつもりがなさそうな大和に西九条は呆れる。
「おまえの従兄として言わせてもらうが、おまえも幸せになっていいんだぞ」
「……そんなことを言うのは、孝仁だけだ」
大和はコーヒーカップをテーブルに置くと、逃げるように立ち上がった。



