ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 すぐにスマートフォンを操作し、西九条に連絡を入れてくれる。
 数秒でピコンと返事が届き、あっさり七海の休みは認められた。

「有休があるから、自由に使えばいいそうだ」
 休みになったぞと大和はスマートフォンを見せてくれる。

「え、そんなに簡単に?」
「あの派遣会社がおかしかっただけだ」
 次は? と聞かれた七海は、うーんと悩んだ。
 端の方が少し溶けたバニラアイスをスプーンですくうと、くるんと丸まる。
 冷たくて甘いアイスクリームは口の中であっという間に溶けてしまった。

「おいしい」
 なんて子どもっぽいのだろう。コンビニでアイスをねだるなんて。
 でも、そんな些細な「わがまま」さえ、自分に許してこられなかった日々の重みが、一気に押し寄せてくる。
 
「……七海」
 視界が歪んでしまった七海は、慌てて手の甲で目元を拭い取った。

 大和はブラックコーヒーを飲みながら、七海がアイスを食べ終わるのを待っていてくれる。
 この何も会話がない時間も、大和が側にいてくれることが今の七海にはとてもうれしいことだった。

「……朝、まで」
「うん?」
「今日は、一人で寝たくない……は、さすがに困ります……よね」
 目をつぶると、使い込まれたお金や、叔母の顔を思い出しそうだと七海は俯く。
 大和は無言のまま、七海の身体を包み込むように抱きしめてくれた。
 
「眠るまで、ずっと側にいてやるから」
 大和の低く落ち着いた声が、七海の頭上から降ってくる。
 その言葉を聞いた瞬間、七海のなかで張り詰めていた最後の糸が、ぷつりと切れた。

 声を押し殺そうとしたが、一度溢れ出した感情はもう止められない。
 厚い胸板から伝わる鼓動と体温に縋り付くように、七海は大和の胸に顔を埋めたまま、子どものように声を上げて泣いた。

 叔母に搾取され続けた悔しさ。
 一人で背負い込んできた理不尽な歳月。
 そして、守ってくれた大和の優しさ。
 すべてが混ざり合い、熱い涙となって大和のシャツを濡らしていく。
 これまで流せなかった分までの涙をすべて吐き出すように、七海は大和の腕の中で泣き続けた。