ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 大和は、どうしてここまで私のために動いてくれるのだろう。
 ふと見上げた大和の瞳の奥には、なぜか悲しみが混ざっているような気がした。
 
「帰ったら、もう少し詳しく聞かせてくれ」
 駅に電車到着のアナウンスが流れ、銀色の車体がやってくる。
 
「私、無茶苦茶な要求をするかもしれないですよ?」
「あぁ。叶えてやるから好きなだけ言え」
 ひとりじゃなくてよかった。
 大和と出会えてよかった。
 七海は一歩踏み出しながら「わがまま言ってもいいですか?」と笑った。

   ◇

 マンションに戻る前に、深夜のアルバイトをしていたコンビニで七海は高級アイスクリームを大和に買ってもらった。
 
「こんなのわがままに入らないだろう」
 笑いながら大和は5個も買ってくれる。
 
「そんなに……!」
「1日で全部食べるのはダメだぞ」
 お腹が冷えるとよくないと、急に医者モードになる大和を七海は笑った。

 マンションの玄関の鍵を開け室内の明かりが自動で付くと、ようやく張り詰めていた気持ちが解けていく。
 大和はコートを脱ぎながら、「コーヒーでいいか? すぐアイスか?」とキッチンへ向かって行った。

「あ、私も手伝います」
「いい。座ってろ。今日は疲れただろう」
 七海はリビングのソファに腰を下ろす。
 少し遅れて、香ばしい豆の香りと共に、湯気の立つマグカップがふたつテーブルに置かれた。
 
 もちろんひとつは七海用に砂糖もミルクも入ったカフェオレになっている。
 大和は七海の隣に腰を下ろすと、七海にアイス用のスプーンを差しだした。

「さぁ。『わがまま』聞かせてもらおうか」
 七海はスプーンを受け取り、アイスの蓋をそっと開ける。

「わがままなんて、あまり言ったことがなくて。何を言えばいいのか、迷っちゃいますね」
 七海は視線を落とし、まだ硬いバニラアイスの表面を見つめた。

 胸の奥に溜まった澱のような感情。
 叔母への怒り、叔父と真の困惑した顔を見た時の気まずさ、そしてそれ以上に溢れてくる「誰かに甘えたい」という切実な欲求。

「月曜日、仕事をお休みしたいです。ズル休みになっちゃいますけど」
 大和は意外そうに眉を上げたが、すぐに口角を緩めた。