ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「……悪かった」
「どうして大和さんが謝るんですか?」
「七海に話す前に、あの場で話してしまった」
 本来なら七海にどこまで開示してよいのか聞いてから出さなくてはならないと、大和は申し訳なさそうな顔をする。
 駅のホームで電車を待ちながら、七海は首を横に振った。

「叔母さんがこっちに来るなんて思っていなかったから、私もびっくりして」
 西九条弁護士に頼んだのは最近なのに、もうこんなに調べてくれていたことも驚きだったけれど。
 店で書類を見せてもらった時、自分の通帳では見たこともない桁数の金額に驚いた。
 高校の制服や教科書代、修学旅行の費用なども叔父が払ってくれていたと思い込んでいたが、両親の遺産から支払われたと思った瞬間、しがらみのようなものから解き放たれた気がした。
 
「七海もこれからどうしたいのか考えておいてくれ」
「……はい」
 叔母が遺産を内緒で使い込んでしまったことは一生許せないし、さらに毎月お金を要求され続けたことも理不尽すぎる。
 
 叔母を法的に訴えれば、お金は戻ってくるのだろうか。
 でも、何も知らなかった叔父や真に借金を背負わせたいわけではない。
 
 使い込まれた遺産。
 不当に支払わされた月々の金銭。
 お父さん、お母さん。私、どうするのが正解なのかな……。
 
「『結論』に辿り着くまで、いくらでも聞いてやる」
 答えの出ない問いに苦しむ七海を引き上げるかのように、大和の大きくて温かい手が七海の肩に触れる。
 方法は考えてやるから、どうしたいのかだけ決めろと大和に言われた七海は頷いた。

「私、叔母を『許す』ことはできないです」
「あぁ」
「でも叔父さんの日常は守りたいし、真くんに負い目を感じさせたくないです」
「わかった。方法を考えよう」
 両立は無理だと思っていたのに。
 大和の言葉は、暗闇を彷徨っていた七海の前に引かれた一本の光の筋のようだった。