ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 昼休みに6万円送金すると、夕方に『あと4万』とメッセージが届く。
 いくらなんでも毎月10万円は払えない。
 無理、絶対無理。
 帰り支度をしながら悩んでいた七海は、心の声が漏れていくことに気が付いていなかった。

「何が無理なの?」
 なにか困っている? と西九条に声をかけられた七海は心臓が飛び出るかと思った。

「今日ずっと変だったけれど」
「す、すみません。仕事はちゃんと……」
 ちゃんとやりましたと言いたかった七海は、ちゃんとできていない現実に愕然とした。

 土曜日は休みのはずなのに、土曜日にスケジュールが設定されている。
 これは絶対にミスだ。

「……できていませんでした」
 すぐ直しますと七海はメールとメモを確認しながらスケジュールを正しい日にちに戻した。

「先週の飲み会でなにか嫌なことあった?」
「いいえ。楽しかったです」
「じゃあ、森口がいなくなって寂しくなった?」
「寂しいですけど、でも大学卒業してほしいですから」
 インターンが終わるのは仕方がないと、七海は他のスケジュールもあっているか確認しながら答える。
 
「大和となにかあった?」
「なにもないですよ?」
「あれ? じゃあ、悩みの理由は何?」
 まるでクイズの答えを考えるかのように、なんだろうと西九条は首を捻った。
 
「西九条さん、一般的にどうなのか聞いてもいいですか?」
「いいよ。個室に行く?」
 西九条は個室の入り口を「使用中」に変え、七海を中に通す。
 普段、依頼人が座る場所に座った七海は、どこまで打ち明けるか悩んでしまった。

 タイミングよく再び叔母からメッセージが届く。
 どう説明したらよいのかもわからない七海は、叔母からの『今日中に払いなさいよ』というメッセージを、西九条に見せた。

「どういうこと? 叔母さんって森口のお母さん?」
「はい」
「毎月10万って何を買ったの?」
「両親の借金です」
 七海はよくわからないと首を横に振った。

「大和はこのことを知っているの?」
 七海は首を横に振る。

「森口は?」
「……知らないです」
 七海は返してもらったスマートフォンをグッと握りしめた。