資料のフォーマットは一昨日係長にもらったものだし、データは入力ミスがないか何度も確認した。
枠も消えていない。日付もあっている。
どこがダメなの?
「ただいま~って、あれ? 今日遅いね、斎藤さん」
「出張おつかれさまです」
昨日から泊りで出張に行っていた武田は、私が昨日無断欠席したことも、今日係長と言い合いになったことも知らないから声をかけてくれるのだろう。
他の人たちはできるだけ私とは関わらないようにしているのがよくわかる。
係長に嫌われて評価が落ちたら大変だから。
「なにかトラブル?」
「あ、えっと。ミスをした場所を探せなくて」
私とは話さない方がいいですよと、武田に教えた方がいいだろうか?
自分で言うのもなんだか悲しいけれど。
「ちょっと見せて」
七海の横からパソコンをのぞき込んだ武田は画面を見た瞬間、腕を組んだ。
「このフォーマットってさ、誰からもらった?」
「え? フォーマット?」
フォーマットが違うの?
そんなの気づくの無理でしょ!
「今月から変わったんだよ」
「このフォーマットを係長からもらったのは一昨日なので、今月ですよ?」
「あ〜、あの人ってそういうことするんだ」
武田は七海からマウスを奪うと、サーバーの正社員限定フォルダを開く。
あるフォルダからファイルをコピーし、七海のデスクトップに置いた武田はカチカチッと軽くマウスを押した。
置いてある場所は正社員限定。
派遣の七海では絶対にたどり着かない場所だった。
なんなの、あのハゲおやじ!
最低!
七海は思わず言葉に出してしまいそうな悪口を必死に飲み込みながら、膝の上で拳を握った。
「ありがとうございます」
「がんばって」
七海は急いで新しいフォーマットにデータを転記する。
何度も見直し、ようやく完成した頃には、時計は21時を過ぎていた。
「はぁ〜。やっと終わった」
今度こそノートパソコンを閉じて七海は会社を出る。
スマートフォンを確認すると佐野から1件のメッセージが残されていた。
『食事はきちんと取ったか?』
「まだです。今仕事が終わったばかりで」
最初のメッセージから数時間経っているのに、すぐに既読になる。
『働きすぎだろう』
お医者さんにそう言われてもまったく説得力がないなぁと笑いながら、七海は今日の出来事を簡単に説明した。
こんなことを書かれても佐野は迷惑だろう。
でも返事が無くても構わないので、このモヤモヤした気持ちを誰かに聞いて欲しかった。
『我慢せずにハッキリ言ってやれ!』
「そんなことをしたら、クビになっちゃいますよ」
『そんな会社、しがみつく価値なんてない』
他にもたくさん派遣会社があるし、他にもたくさん企業はあるとメッセージをもらった七海は目を見開いた。
私は高卒だし、自分が会社を選べるなんて思いもしなかったが、確かに派遣会社は今のところだけではない。
もしかしたらもっと条件がいいところがあるのだろうか?
今の派遣会社は残業代が出ない。
担当は配慮に欠けた言動がある。
別の派遣会社にするという選択肢もありかもしれない。
『どこにも雇ってもらえなかったら、家政婦として雇ってやるよ』
きっと冗談だし、本気にしてはダメだと理解しているけれど、七海のモヤモヤした気持ちはいっきに晴れた。
「ありがとうございます。佐野さんのおかげで元気が出ました」
『気を付けて帰れよ』
お辞儀のスタンプを返した七海は、街灯が少ない住宅街を歩き、おんぼろアパートに帰る。
冷凍しておいたごはんを温め、具のない味噌汁と半額のコロッケを食べながら、思わず派遣会社の検索をしてしまった。
翌日からも係長の地味な嫌がらせは続いた。
フォーマットも気を付けたし、データの入力ミスはもちろん気を付けているし、期限よりも1日~2日前に提出をするように心掛けた。
それなのに──。
「交代……?」
書類に書かれた派遣交代理由は、とても納得できるものではなかった。
枠も消えていない。日付もあっている。
どこがダメなの?
「ただいま~って、あれ? 今日遅いね、斎藤さん」
「出張おつかれさまです」
昨日から泊りで出張に行っていた武田は、私が昨日無断欠席したことも、今日係長と言い合いになったことも知らないから声をかけてくれるのだろう。
他の人たちはできるだけ私とは関わらないようにしているのがよくわかる。
係長に嫌われて評価が落ちたら大変だから。
「なにかトラブル?」
「あ、えっと。ミスをした場所を探せなくて」
私とは話さない方がいいですよと、武田に教えた方がいいだろうか?
自分で言うのもなんだか悲しいけれど。
「ちょっと見せて」
七海の横からパソコンをのぞき込んだ武田は画面を見た瞬間、腕を組んだ。
「このフォーマットってさ、誰からもらった?」
「え? フォーマット?」
フォーマットが違うの?
そんなの気づくの無理でしょ!
「今月から変わったんだよ」
「このフォーマットを係長からもらったのは一昨日なので、今月ですよ?」
「あ〜、あの人ってそういうことするんだ」
武田は七海からマウスを奪うと、サーバーの正社員限定フォルダを開く。
あるフォルダからファイルをコピーし、七海のデスクトップに置いた武田はカチカチッと軽くマウスを押した。
置いてある場所は正社員限定。
派遣の七海では絶対にたどり着かない場所だった。
なんなの、あのハゲおやじ!
最低!
七海は思わず言葉に出してしまいそうな悪口を必死に飲み込みながら、膝の上で拳を握った。
「ありがとうございます」
「がんばって」
七海は急いで新しいフォーマットにデータを転記する。
何度も見直し、ようやく完成した頃には、時計は21時を過ぎていた。
「はぁ〜。やっと終わった」
今度こそノートパソコンを閉じて七海は会社を出る。
スマートフォンを確認すると佐野から1件のメッセージが残されていた。
『食事はきちんと取ったか?』
「まだです。今仕事が終わったばかりで」
最初のメッセージから数時間経っているのに、すぐに既読になる。
『働きすぎだろう』
お医者さんにそう言われてもまったく説得力がないなぁと笑いながら、七海は今日の出来事を簡単に説明した。
こんなことを書かれても佐野は迷惑だろう。
でも返事が無くても構わないので、このモヤモヤした気持ちを誰かに聞いて欲しかった。
『我慢せずにハッキリ言ってやれ!』
「そんなことをしたら、クビになっちゃいますよ」
『そんな会社、しがみつく価値なんてない』
他にもたくさん派遣会社があるし、他にもたくさん企業はあるとメッセージをもらった七海は目を見開いた。
私は高卒だし、自分が会社を選べるなんて思いもしなかったが、確かに派遣会社は今のところだけではない。
もしかしたらもっと条件がいいところがあるのだろうか?
今の派遣会社は残業代が出ない。
担当は配慮に欠けた言動がある。
別の派遣会社にするという選択肢もありかもしれない。
『どこにも雇ってもらえなかったら、家政婦として雇ってやるよ』
きっと冗談だし、本気にしてはダメだと理解しているけれど、七海のモヤモヤした気持ちはいっきに晴れた。
「ありがとうございます。佐野さんのおかげで元気が出ました」
『気を付けて帰れよ』
お辞儀のスタンプを返した七海は、街灯が少ない住宅街を歩き、おんぼろアパートに帰る。
冷凍しておいたごはんを温め、具のない味噌汁と半額のコロッケを食べながら、思わず派遣会社の検索をしてしまった。
翌日からも係長の地味な嫌がらせは続いた。
フォーマットも気を付けたし、データの入力ミスはもちろん気を付けているし、期限よりも1日~2日前に提出をするように心掛けた。
それなのに──。
「交代……?」
書類に書かれた派遣交代理由は、とても納得できるものではなかった。



