ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 大和は七海の右手首のギプスを見つめる。

 叔父と七海の関係は良好に見えた。
 叔父はきっと七海がおんぼろアパートに住んでいたことも栄養不良だったことも知らないのだろう。
 もしかしたら叔母に送金していることも……?

 そうだとすると、学生時代はどんなふうに暮らしていたのか。
 
『実は七海のことは妻に任せきりで』
『離れに住んでいたから』
 あの家には離れのような建物を作るほどの敷地はなかった。
 駐車場の横にあったのは小さな倉庫だけで、庭もほぼない。

「もう一度、金沢に行くか」
 七海には内緒で。
 大和は眉間に皺を寄せると、七海のスマートフォンをパールのケースの隣に置き、七海の部屋をあとにした。

    ◇

 翌日の土曜日は人生初の二日酔いを経験させてもらった。
 日曜日は雨だったし、なんとなく頭もぼんやりしていたのでどこにも出かけず。
 月曜日、出社した七海はみんなから「大丈夫だった?」と声をかけられた。
 
「頭痛と胸やけで一日潰れてしまったんです」
「俺も~」
 野村は地酒を飲みすぎて、ベロベロになってしまったと笑う。
 
「もう二度とお酒は飲みません!」
「甘えた七海ちゃん、可愛かったのにもう見られないのか~」
 残念だなと笑う西九条に、七海は固まった。

「甘え……?」
「そうそう、大和にしがみついてさ」
 嘘でしょ?
 大和は何も言っていなかったけれど?

「森口は大泣きでさ」
「え?」
「七海にもう会えない~って」
 連絡すればいいって勝手に言っておいたと笑いながら、西九条は席に戻ってしまった。
 
「テスト、始まっちゃったかな」
 七海は真にスマートフォンでメッセージを送付する。
 テスト頑張ってねと送ると、意外にもすぐに既読が付いた。
 
 真面目な真には似合わないクマの「あんやと」スタンプが可愛い。
 「あんやと」は金沢弁で「ありがとう」だ。
 上京しても金沢が好きなんだなと笑っていると、叔母からもメッセージが届いた。

『送金はまだなの?』
 土曜日は二日酔いだったし、日曜は雨だったので出かけなかった。
 今日は朝から出社でまだATMには行けていない。
 そもそもこれから毎月10万円なんて無理だ。

『10万は難しいです。今まで通り6万にしてもらえないですか?』
 既読はつくが返事は来ない。
 七海は溜息をつきながらスマートフォンをポケットにしまった。