ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 中学生が新聞配達をするのは特定の条件と手続きを満たせば可能だが、よほどでない限り許可は下りない。
 いくら両親がいなくても、叔父がいるのだから許可はでないはず?
 新聞奨学金は高校卒業後の進学にしか適用されないし、一体どういうことだ?

「もう二人とも大人なんだからさ、森口が七海ちゃんに会いたいと思うなら会えばいいんじゃないかな」
「七海はもう会いたくないって思っているかも」
「今日は楽しそうだったけれど? 誕生日プレゼントも嬉しそうだったし」
 とりあえず誘ってみればいいんじゃない? と西九条がアドバイスをすると、真は素直に頷く。

「寮まで送るよ」
 西九条はようやく泣き止んだ真と、七海のことを話しながらタクシーの到着を待つことにした。

    ◇
 
 タクシーの中で熱くオレンジについて語った七海は、マンションに着く直前でうとうとし始めた。

「降りるぞ。部屋までは寝るな」
 タクシーの運転手に笑われながら七海をタクシーから引きずるように下ろすと、ガバッと抱きつかれる。

「やまとしゃん、けーきありがと」
 さらに呂律が回らなくなってきた七海を支え、マンションへ。

「20歳の誕生日に酒飲んで酔いつぶれるなんてベタすぎるだろ」
 明日は二日酔いだぞと大和は呆れながら七海をベッドへ運んだ。

「水を持ってくるから、着替えられるなら着替えてから寝ろ」
「まって~、これとって」
 七海は服の中からチェーンを引っ張りだす。
 それが先日買ったパールのネックレスだということに大和はすぐ気が付いた。

「これね~、だいじなの。だからふいてケースにしまうの」
「大事なのか?」
「うん。たからもの」
 プラチナのチェーンを外して七海に手渡すと、ケースを取ってとお願いされる。
 ケースの中の布でパールを拭いた七海は、丁寧にケースの中にネックレスを入れた。

「ふたはしめちゃダメ~」
 開けたまま元の場所に置いて欲しいと頼まれた大和は、七海の指示通りにケースを戻す。
 上機嫌な七海は、なぜか小さい子どもが抱っこをねだるかのように両手を大和の方に広げた。

「次はなんだ?」
 酔っ払いのすることはよくわからない。
 大和が溜息をつきながら七海に近づくと、七海はニコニコ笑った。

「ここ~!」
「おい、やめろ」
 ヒビが入った右手でバシバシと布団を叩く七海の手を止めると、今度は太ももががっちりと捕まる。

「やまとしゃんと寝る~」
「……誰だよ、飲ませたの」
 酔っ払いに常識が通用するわけもなく、大和は仕方なく七海の隣へ。

「これも外すぞ?」
 七海の髪についたバレッタを取りサイドボードの上へ置くと、七海は大和を引っ張った。

「んふふふ。うれしい。ずっとひとりだったから」
 しがみついたまま離れない七海に腕枕をしながら、大和は溜息をつく。

「酒癖悪すぎだろ」
「たのしい。たんじょーび」
 大和はよかったなと酔っ払いをあしらう。
 
「もうひとりは、イヤだな……」
 寂しくてツラいと呟いた七海は急に静かになり、そのまま眠りについた。
 
「……七海?」
 しがみついた七海の左手をゆっくりと開き、腕枕をそっと外す。
 ベッドから起き上がろうとした大和を止めるように、七海のスマートフォンが鳴った。

「ポケットに入れっぱなしか?」
 さすがに壊れたらいけないと、大和は七海のズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。
 見るつもりはなかったプッシュ通知が、思わず大和の目に飛び込んだ。

『叔母:今月の振り込みはまだなの?』
『叔母:弁護士と付き合ってるんでしょ?』
『叔母:今月から10万払いなさい』

 順番に送られてくるメッセージに大和は目を見開く。
 急いで自分のスマートフォンのカメラで七海のプッシュ通知を写真に撮った。

「10万……?」
 今月の振り込みということは、毎月振り込んでいるということか?
 月10万円、叔母に送金?

「借金を返済していると言っていたが、ローン会社ではなく叔母に……?」
 振り込みを待ってと言われたくないから、何度電話しても叔母は出ない?
 金沢の家に行ったら、叩かれて突き飛ばされた?