ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「大和! お前も早く入れ」
 誘われた大和は渋々みんなの後ろへ。

「ハイ、笑顔くださ~い!」
「なんだ、その掛け声」
 大和のツッコミを笑いながらみんなで写真を撮る。
 
「大和さん、ケーキありがとう」
「切り分けてあとで出してもらうからな」
「佐野弁護士ありがとうございます。俺、がんばります」
「期待している」
 七海と真は先ほどの席へ。
 来たばかりの大和は西九条の隣へ。

 最後にケーキを食べるまで賑やかな飲み会は続いた。

「あははは。七海ちゃん飲みすぎちゃったねぇ」
「笑い事じゃない」
 真っ赤な顔でにこにこしている七海を支えながら、大和は盛大な溜息をついた。

「やまとしゃん、ケーキね、オレンジがしゅっごくおいしくて~」
「あとで聞くからとりあえずタクシーに乗れ」
「えぇ~、暑いし~」
 手でパタパタと顔をあおぎながら、七海がふにゃっと笑う。
 
「オレンジのカクテルもいっぱいあってね~、それで~」
「わかった、わかった」
 大和は七海をタクシーに押し込むと、続いて自分も乗り込んだ。

「七海ちゃんをよろしく」
「そっちもそれ、ちゃんと届けろよ」
 大和は西九条の横で大号泣の真を指差す。
 
 七海は笑い上戸、真は泣き上戸だ。
 若い二人の変わり果てた姿に、西九条は若いっていいねぇと笑った。
 
 大和と七海を乗せたタクシーが走り出す。
 西九条は真をタクシー乗り場の近くのベンチに座らせると、自販機で買った水を差し出した。

「大丈夫?」
「すみません、最後の日にこんな」
 最後なのが寂しくてとボロボロ涙をこぼす真の背中を西九条はそっと摩る。

「七海にまた会えなく……」
「え? 土日に会えばいいじゃん」
「会ってはダメだと」
 泣きながら七海に会いたいを連呼する真に、西九条は首を傾げた。

「誰が?」
「母が」
「どうしてお母さんが七海ちゃんに会っちゃダメって言うの? 一緒に住んでいたんでしょ?」
 真はもらった水を飲むと、母とのメッセージのやり取りを西九条に見せた。

『Makoto:七海が玄関で怪我したって?』
『母:自業自得でしょ』
『Makoto:どういうこと?』
『母:金の無心をしに来たのよ』
『母:本当に恩知らずで困るわ』
『母:真も気をつけなさい。関わっちゃダメよ』
『母:今の事務所が終わったら二度と会わないようにね』

「七海がそんなことするはずないのに」
 スマートフォンを返された真は、どういうことなのかわからないと右手で顔を覆った。

「叔母さんとは良好で、叔父さんとはあまり話さなかったみたいなことを言っていなかった?」
 確か、上京するのを叔母は賛成してくれたと。
 
「うちの父が七海の母の弟だから、七海が父には会いたがらないって。だから倉庫に住むって。俺も父に似ているから近づいてはダメだと言われていて」
「お母さんに?」
「両親を思い出したら可哀想だって」
 だから母だけが七海の世話をしていたと真は西九条に学生時代の話をした。

「じゃあ、食事もバラバラってこと?」
「俺は塾で帰りが遅かったし、一緒に食事をすることはなかったです」
「朝ごはんなら一緒に」
「七海は新聞配達をしていたので」
 中学生のときからやっていると言われた西九条は目を見開いた。