ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 その日は七海の誕生日だ。

「その日に何か?」
「誕生日でしょ?」
「えぇっ、どうして知って」
「履歴書に書いてあったよね」
 たしかに。履歴書に生年月日書きました。
 誕生日に耐性がなさ過ぎて恥ずかしい。

「森口のインターンがラストなのと、七海ちゃんの誕生日のお祝いと合わせて、みんなで飲みに行こうねって話になったんだよ」
「インターン、終わり……?」
「うん、一ヶ月なんてあっという間だね」
 そうか、インターンって一ヶ月だけなんだ。
 大学の授業もあるもんね。
 何ヶ月も弁護士事務所にいられるわけがない。

「じゃ、空けておいてね~」
 西九条は他の人にも声をかけに行ってしまう。
 七海は荷物を置くと、カレンダーに飲み会とメモをした。

 あ、大和にこの日は飲み会だって伝えないと。
 当日ケーキを食べようって言ってくれたのに。
 
 七海はスマートフォンにメッセージを入力した。
 だが、今日は病院勤務だからすぐには既読にならない。
 
「七海、おはよう」
「おはよう真くん」
「おっはよ、七海ちゃん。今日も可愛いね」
「おはようございます野村さん。今日のネクタイも素敵ですよ」
 七海が野村をあしらうと、真は驚いた顔をした。

「日に日に七海ちゃんが成長していく」
 残念だなぁと笑いながら野村は自分の席へ。

「先週、オネエさんに教えてもらったんだよ」
 弁護士事務所に来るお客さんはいろいろな商売の人がいる。
 ママさんやお姉様やオネエさんも。
 みんなが七海に、男性の言葉を軽く流す方法や、こんな男には気をつけろと、いろいろなことを教えてくれるのだ。
 
「弁護士事務所ってすごいな」
 変なところで感心する真を七海が笑う。
 
「あ、森口~! 6月20日の夜に送別会するから!」
 西九条に予定を空けといてと言われた真は、七海をジッと見つめた。

「七海、誕生日だけれど行く?」
 私の誕生日、まだ覚えていてくれたんだ。
 
「うん。私の誕生日もお祝いしてくれるんだって」
「そっか」
 楽しみだなと言われた七海は、うんうんと頷いた。

 七海のスマートフォンが大和のメッセージを受信する。

「あ、大和さんも参加するって」
「佐野弁護士も!? 話せるかな。なに話せばいいかな」
 まるで恋する乙女のように手を口元に当てながら「緊張する」と真が言い出す。
 七海は初めて見る真の姿を笑いながら「来週の金曜だから緊張するのは早いよ」とツッコんだ。