ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 ウェッジソールは安定感があり、かかとがストラップで固定されていて歩きやすい。
 
「今日の服ともお似合いですね」
 はい。服と靴はお似合いです。
 中身がこんなちんちくりんでなければ。

「圧迫感や擦れるところは?」
「ないです。クッションというか、長時間でも足の裏が痛くならなさそうです」
 いつも値段で靴を決めていたからソールが薄かったり、歩行時に靴の形が変形してしまうけれど、高い靴ってこんなに安定感があったんだ。
 初めて知ったけれど、庶民には贅沢品であることは間違いない。

「では、これを。このまま履いていく」
「えっ? でも、服も買ってもらったのに」
「あの靴よりはこちらの方がその服に似合うだろう?」
 なにかおかしいかとクレジットカードを店員に渡しながら言われた七海は焦った。
 
「でも」
「誕生日プレゼントだ」
 少し早いけれどと言われた七海は目を見開いた。

「どうして……?」
 大和に誕生日を教えたことはないのに。

「マイナンバーカードに書いてあった」
 そんなのいつ大和に見せる機会が?
 あ、右手首のギプスの時に出した!
 誕生日が今月って気づいて買い物に連れてきてくれたってこと……?

 店員はクレジットカードとレシートを大和に差し出すと、七海が履いてきた靴を白い紙で片方ずつ包み、靴屋の紙袋に。
 当然のように大和が紙袋を持ち、店を出た。

「次は鞄か、装飾品か」
 ここから近いのはどちらだろうかと店を見渡す大和に、七海は焦った。
 
「待って、待って。もうこれ以上は」
「七海を飾る楽しみを奪うなよ」
 プレゼントを贈る相手がいる男の方が、ぼっちな男よりも上だろ? と言われた七海は、その変な理由に首を傾げた。
 
「今日一日我慢しろ」
「ご褒美すぎます」
「では問題ないな」
 需要と供給が一致していると言われた七海は、供給過多だと心の中でツッコんだ。

 仕事用の鞄は今使っているものがポケットも多くて気に入っているため遠慮した。
 おしゃれな鞄も小さすぎて荷物が多い七海には合わず。
 陶器の店で色違いのマグカップを買い、調理器具の店で圧力鍋を買い、色違いのタオルケットも購入した。
 
 ペンダントトップにダイヤモンドが使われているネックレスは、あまりにも値段が恐ろしすぎて無理だと言い張った。
 
「ではこちらはどうでしょう?」
 店員が教えてくれたのは、アコヤ貝から自分でパールを取り出すイベント。

「この週末限定なんです。大きさも色も選ぶことはできませんが」
 水槽から好きなアコヤ貝を選び、自分で取り出したパールをアクセサリーに加工できるのだと店員に説明される。

「七海、どの貝にする?」
 指を差せと言われた七海は水槽を覗き、一番右端のアコヤ貝を指差した。
 店員に準備された大和は、貝を横向きにし、バターナイフを差し込む。

「どんな色か楽しみですね」
「大きさも気になるな」
 貝を広げた大和は、貝柱の少し上の真珠袋にナイフを当て、滑らせるように動かす。
 ポロンと出てきたパールに七海は「わぁ」と思わず声を出してしまった。

「七海に似て、小さいな」
 パールまで小さくなるのかと大和は笑う。
 
「青っぽいですね?」
 パールって白のイメージだったけれど?
 大和が取り出したパールは青みがかったパールだった。
 こんな色もあるんだ。
 もっと黒っぽいものはさっきお店にも並んでいたけれど、これはグレーというよりも青だ。

「ブルーアコヤ!」
 嘘でしょ、まさか! と興奮した店員の反応に、大和と七海は顔を見合わせた。