ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「佐野先生! 急患で加藤先生がオペに行ってしまったので、診察室2をお願いします」
「わかりました」
 大和は看護師と一緒に脳外科の診察室2へ。
 撮影されたばかりのMRI画像と患者のカルテに書かれた症状を見ながら大和が病名を告げると、患者は絶望的な顔をした。
 
 病名を告げた時の反応が一番ツラい。
 本人も家族も「まさか自分が病気になるなんて」「何かの間違いではないか」と、告知された事実を信じられないという反応をするからだ。そして次は、混乱や強い不安、落ち込み。
 前向きな気持ちになり、病気と共に生きていく方法を模索するまでには時間がかかる。

「薬で少しずつ治していきましょう」
 少しでも不安を取り除いてあげられるとよいけれど。
 治療方法、期間、病気の症状を専門用語を避け、図や絵を用いて説明する。

 七海の父親も薬で治る病気だったら良かったのに。
 ペコペコと何度も頭を下げながら部屋を出て行く患者と家族を見送った大和は、誰も病気にならなければいいのにと目を伏せた。

   ◇

 夕食のあと、テレビの歌番組を聞きながらソファーで洗濯物を畳んでいた七海は、目を左手で擦った。
 次はくしゃみ。
 可愛くもないブシュンというくしゃみをしてしまった七海は、少し恥ずかしかった。
 高校のクラスメイトの女の子は、可愛くチュンとくしゃみをしていたのに、どうしてマネできないのだろうか。
 
「風邪か?」
 ソファーで雑誌を読んでいた大和が、パタンと閉じる。
 
「花粉かもしれないです。外に洗濯物を干してしまったから」
「洗い直すか?」
 立ちあがろうとした大和を、七海は急いで止めた。
 
「そんなわざわざ。大丈夫ですよ」
 そういえば自分が平気だから気にしていなかったけれど。

「大和さん、花粉は平気ですか?」
「あぁ。アレルギーはない」
 よかった。知らずに外へ干していたら申し訳なかった。
 七海はタオルを畳みながらホッとする。
 
「七海もアレルギーはないって言っていたな」
 初めてあった日に聞かれて、おいしいご飯をご馳走になったんだよね。
 今考えても、優しすぎるでしょ。
 
「栄養不良はやっと改善されてきたようだ」
「太ったってことですよね⁉︎」
 やっぱり⁉︎
 最近スカートのウエストがキツくなってきて、マズイと思っていたけれど、バレていたなんて。

「超痩せ型が、痩せ型になった程度だぞ?」
 まだまだ標準より細すぎると言われた七海は、大和には体型すら隠せないと項垂れた。