翌朝、七海に会った真の第一声は、「おはよう」ではなく「すごかった」だった。
大学三年生の真は、ここに来るまでにも数社でインターンシップの経験をさせてもらったが、あんなにすごい裁判を見せてもらったのは初めてだと七海に熱く語った。
「佐野弁護士ってすごいよ」
「え? 大和さん?」
「そう。カッコよかった」
昨日行ったのって大和が担当の裁判だったの?
大和は何にも言っていなかったけれど……って、私に仕事の話をするわけないか。
守秘義務もあるだろうし。
「医療過誤訴訟って本当に大変なんだな……」
思わず呟いてしまった真はハッとし、七海に「ごめん」と謝罪する。
七海は大丈夫だと真に微笑んだ。
「森口~!」
「はい、すぐ行きます!」
最後にまた「ごめん」と言いながら、先輩弁護士に呼ばれた真は急いで荷物を置きに行く。
そんなに気にしなくてもいいのになぁ。
七海は肩をすくめながらパソコンの電源を入れた。
「七海ちゃん。ちょっとちょっと」
「はい、西九条さん」
西九条に手でおいでおいでされた七海は個室の打ち合わせブースに。
「ごめんね、言いたくなかったら黙秘って言って」
変な前置きをした西九条に、七海は先ほどの真とのやり取りを尋ねられた。
「さっき、森口がごめんって言っていたけれど、なにかあったの?」
「あ、いえ」
なんでもないですと答えた七海は、西九条の視線で観念する。
「私の父、病気で亡くなっているんです」
「病名は?」
「小学生だったのでわからなくて。脳の病気だって聞いたことがあります」
当時、七海は9歳。
病院にお見舞いに行ったが、父は起き上がることも話すこともできなかったことしか覚えていない。
「医療ミスじゃないかって、母がずっと言っていて。でも……」
「医療弁護士が見つからなかった……?」
「よくわからないんです。どうなったのか」
わかっているのは母が疲れてしまい、この世を去ったことだけだ。
そして七海に残ったのは借金。
いくら借金があるのか、叔母には教えてもらえなかったけれど。
「七海ちゃんが小学生の頃だと、まだ医療弁護士というのが確立されていなかっただろうね」
「そうなんですか?」
「医療分野に特化した弁護士はいたけれど、人数も少なくて探すのも大変だったと思うよ」
今も少ないけれどねと西九条は付け加える。
「ごめんね、ツラいことを思い出させて」
「いえ。昔のことですから」
では仕事に戻りますと、七海はお辞儀をして受付に戻った。
◇
『父親の病名も訴え取り下げの経緯も、なにも知らなかったよ』
西九条から電話で報告を聞いた大和は、病院の休憩室でコーヒーを飲みながら大きく息を吐いた。
『借金は弁護士費用だろうか?』
「父親の保険金で賄えないほど?」
『10年前なら今よりも希少性が高いし、高額だった可能性もある』
父親の保険金がいくらだったのかはわからないが、生活費、弁護士費用ですべてなくなってもおかしくはない。
医療関係は調査に時間がかかるだけでなく、弁護士も専門知識が必要なため高額になりやすいからだ。
だが、腑に落ちない。
大和は小さな声で呟いた。
『大和、あまり深入りは』
「わかっている」
『わかっていない。おまえの正体を知ったら、あの子は』
西九条の忠告と同時に、大和の呼び出しベルが鳴る。
「孝仁、呼び出しだから切る」
大和はブツッと電話を切ると、コーヒーを飲み干した。
大学三年生の真は、ここに来るまでにも数社でインターンシップの経験をさせてもらったが、あんなにすごい裁判を見せてもらったのは初めてだと七海に熱く語った。
「佐野弁護士ってすごいよ」
「え? 大和さん?」
「そう。カッコよかった」
昨日行ったのって大和が担当の裁判だったの?
大和は何にも言っていなかったけれど……って、私に仕事の話をするわけないか。
守秘義務もあるだろうし。
「医療過誤訴訟って本当に大変なんだな……」
思わず呟いてしまった真はハッとし、七海に「ごめん」と謝罪する。
七海は大丈夫だと真に微笑んだ。
「森口~!」
「はい、すぐ行きます!」
最後にまた「ごめん」と言いながら、先輩弁護士に呼ばれた真は急いで荷物を置きに行く。
そんなに気にしなくてもいいのになぁ。
七海は肩をすくめながらパソコンの電源を入れた。
「七海ちゃん。ちょっとちょっと」
「はい、西九条さん」
西九条に手でおいでおいでされた七海は個室の打ち合わせブースに。
「ごめんね、言いたくなかったら黙秘って言って」
変な前置きをした西九条に、七海は先ほどの真とのやり取りを尋ねられた。
「さっき、森口がごめんって言っていたけれど、なにかあったの?」
「あ、いえ」
なんでもないですと答えた七海は、西九条の視線で観念する。
「私の父、病気で亡くなっているんです」
「病名は?」
「小学生だったのでわからなくて。脳の病気だって聞いたことがあります」
当時、七海は9歳。
病院にお見舞いに行ったが、父は起き上がることも話すこともできなかったことしか覚えていない。
「医療ミスじゃないかって、母がずっと言っていて。でも……」
「医療弁護士が見つからなかった……?」
「よくわからないんです。どうなったのか」
わかっているのは母が疲れてしまい、この世を去ったことだけだ。
そして七海に残ったのは借金。
いくら借金があるのか、叔母には教えてもらえなかったけれど。
「七海ちゃんが小学生の頃だと、まだ医療弁護士というのが確立されていなかっただろうね」
「そうなんですか?」
「医療分野に特化した弁護士はいたけれど、人数も少なくて探すのも大変だったと思うよ」
今も少ないけれどねと西九条は付け加える。
「ごめんね、ツラいことを思い出させて」
「いえ。昔のことですから」
では仕事に戻りますと、七海はお辞儀をして受付に戻った。
◇
『父親の病名も訴え取り下げの経緯も、なにも知らなかったよ』
西九条から電話で報告を聞いた大和は、病院の休憩室でコーヒーを飲みながら大きく息を吐いた。
『借金は弁護士費用だろうか?』
「父親の保険金で賄えないほど?」
『10年前なら今よりも希少性が高いし、高額だった可能性もある』
父親の保険金がいくらだったのかはわからないが、生活費、弁護士費用ですべてなくなってもおかしくはない。
医療関係は調査に時間がかかるだけでなく、弁護士も専門知識が必要なため高額になりやすいからだ。
だが、腑に落ちない。
大和は小さな声で呟いた。
『大和、あまり深入りは』
「わかっている」
『わかっていない。おまえの正体を知ったら、あの子は』
西九条の忠告と同時に、大和の呼び出しベルが鳴る。
「孝仁、呼び出しだから切る」
大和はブツッと電話を切ると、コーヒーを飲み干した。



