ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「あぁ、腫れてきたな」
 内出血で変な色になった手首に七海は驚く。
 右手首はできるだけ使わないようにしながらシャワーでサッと汗だけ流し、大和が昼間に買っておいてくれたTシャツとズボンに着替えた。
 
 ホテルの手配だけでなく、着替えまで買っておいてくれるなんて準備万端すぎない?
 大和はスーツまで買って、着替えてから迎えに来てくれたし。
 まるで叔父さんに会うために着替えたみたいなのは、私の勘違いだろうか。
 
「眠りにくいと思うけれど」
 右手首に新しい湿布を貼ると、大和はコンビニで買った新聞紙を折り曲げ、七海の手首を固定した。
 市販の痛み止めを渡された七海は素直に飲む。

「ベッドに横になれ」
 次は濡れたタオルが叔母に叩かれた頬の上に。
 至れり尽くせりな状況に、七海はウトウトしてきてしまった。
 そういえば、今朝は早かったんだ。
 まだスマートフォンの充電もしていないし、目覚ましもセットしていないし、まだ……。

 警戒心もなく、すやすやと眠ってしまった七海の頬から濡れたタオルを取った大和は、そっと布団をかけた。


 七海は転んだと言っていたが、膝を擦りむかずに手首と頬を怪我するなんておかしい。
 左頬はおそらく右利きの誰かに叩かれたもの。
 手首は尻もちでもついたのではないかと安易に想像できる。

 七海の叔父はおっとりしていて、七海を嫌っている様子はなかった。
 疑わしいのは叔母。
 中学高校時代も任せっきりだったという叔母が、七海を離れに追いやり、夕食も別々にさせていた可能性が高い。
 
 永代供養ならそれほど費用はかからないし、中学高校は離れに住んでいたと言っていたから家賃が発生したわけでもない。
 叔父の言い回しを考えれば、七海の両親の遺産が負の遺産だったとは思えない。
 両親に借金があったのなら相続を放棄すればよかっただろうし、なにかと腑に落ちない。
 ──もう少し調べてみるか。