ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「えっ? 叔父さん!」
「七海、その顔は……!」
 腫れた七海の顔を見た瞬間、大和の方を振り返った真の父の反応に、七海は慌てて立ち上がった。
 違う、違う、大和さんがやったんじゃない!

「叔父さん、大和さんは私を助けてくれたんです」
 七海の包帯にも気づいた真の父は、七海のテーブルへ。

「ちゃんと病院に、いや、今日は土曜か。救急外来に行くなら車で」
「だ、大丈夫だから」
 七海がいつもの癖で手を左右に振ろうとすると右手首に激痛が走る。

「固定していないんだから大人しくしろ」
 見慣れない眼鏡の大和に叱られた七海は涙目になりながら、コクコクと頷いた。
 なんでスーツに眼鏡なの?
 全然違う人みたい。
 
 大和と叔父がコーヒーを頼むとすぐに運ばれてくる。
 七海はだいぶ溶けてしまった甘いコーヒーシェイクをストローで吸った。

「改めまして、佐野です。急なお願いに応じていただき、ありがとうございます」
 大和は何度か七海が自宅に電話をしたが繋がらなかったことを伝え、急に来たことを詫びる。
 叔父は驚いた顔をしながら大和の話を聞いていた。
 
 あぁ、叔父さんは私が電話をしたことは知らないんだ。

「えっと、二人は……」
「今、一緒に住んでいます」
 大和の突然の発言に驚いたのは叔父だけではない。
 嘘じゃないけれど、その言い方は誤解されるのでは?

「これには事情が……」
 言い訳しようとする七海の肩を大和は引き寄せる。
 なんで?
 七海は真っ赤な顔で大和を見上げた。

「叔父さんに聞きたいことがあるのだろう?」
 大和に促された七海は小さく頷くと、前置きもなくいきなり叔父に本題をぶつける。
 
「あのね、叔父さん。お父さんとお母さんの遺産なんだけど」
「うん? 七海の好きにしていいんだよ」
 好きな物を買えばいいし、結婚資金にしてもいいよと叔父は笑う。
 
 思っていた返事と違う叔父の言葉に、七海は戸惑った。
 好きにするも何も、ないものをどうやって?
 どういうこと?

 固まってしまった七海の肩を優しくポンポンと叩いた大和は、スッと話題を変える。
  
「七海さんのご両親の墓参りに行きたいのですが、場所を教えていただけないでしょうか?」
「大和さん、どうして……?」
 両親がいないという話はしたけれど、お墓の話を大和としたことがあっただろうか?
 どうして私がお墓の場所を知らないってわかったの?
 いつ私が知りたいって思っていることに気づいたの?
 
「聞きたいだろう?」
 大和に顔を覗き込まれながら尋ねられた七海は、今にも泣いてしまいそうな顔を隠すことができないまま頷いた。

「墓参り……か」
 叔父はコーヒーを一口飲んだあと、グッと膝の上で拳を握る。

「すまない」
 突然頭を下げた叔父に、七海と大和は顔を見合わせた。