ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「途中に薬局があったな」
「まだ叔父さんに会えていなくて」
「まずは治療だ」
 大和に連れられ薬局で痛み止めと湿布と包帯を買い、駅前の喫茶店へ。

「写真を撮らせてくれ」
「写真?」
 なぜか大和に頬と手首の写真を撮られてから、喫茶店で準備してもらった濡れタオルで頬を冷やした。
 右手首は湿布を貼り、手際良く包帯を巻いてくれる。

「食べながら、ここで待っていてくれ」
 七海の目の前には一人分のサンドイッチとコーヒーシェイクが。

「大和さんは?」
「少し用事がある」
「私、叔父さんを家の前で待っていないと」
「まずは食べろ」
 いい子で待っていろよと頭を撫でられた七海は、喫茶店を出て行く大和の後ろ姿を目で追いかけた。

 19時半にはここを出ないと新幹線に間に合わないのに。
 時計はもうすぐ19時。
 食べていたら叔父さんの家に行けなくなっちゃうのに、ここで待たないといけないの?
 
 七海は右手首に巻いてもらった包帯をじっと見る。

『いい子で待っていろよ』

 待つしかないのだろうか。
 ううん。早く食べて、叔父の家に行ってくると大和に連絡しよう。
 七海は左頬を冷やしていたタオルを下ろし、玉子焼きとキュウリが挟まれたサンドイッチに手を伸ばした。

    ◇

 真の家の前の道路で時計を見ていた大和は、一台の車が近づいて来たことに気がついた。
 車は真の家の駐車場にバックで停車し、エンジンが止まる。
 運転席には50歳前後の男性の姿があったが、助手席には誰もいなかった。
 大和は眼鏡をかけると、車から降りて来た男性に名刺を出しながら声をかけた。

「森口真さんのお父様でしょうか? 真さんのインターン先、西九条弁護士事務所の佐野と申します」
「え? あ、真がお世話になっております」
 真の父はペコペコと頭を下げる。

「お戻りになったばかりで恐縮ですが、少しお時間をいただけないでしょうか」
「あの、真が何か……」
「いえ。本日おうかがいしたいのは、斎藤七海さんの件です」
 駅前の喫茶店でどうでしょうかと大和が誘うと、真の父は頷く。
 駅までの10分間、大和は相手の緊張を和らげるために真のインターンの様子を話した。
 一緒に業務はしていないが真面目で優秀だと聞いていると話すと、真の父はホッとした表情を見せ、足取りも軽くなった。

『食べ終わったら叔父さんのところに行ってもいいですか?』
『あと5分、そこで待っていてくれ』
 七海から連絡が来た大和はすぐに返信する。
 そわそわ時計を見ていそうな七海を思い浮かべながら、大和は真の父と一緒に七海が待つ喫茶店に向かった。