ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 これって避けられているってことだよね?
 確かにもう二度と連絡してくるなって言われたけれど。

 でもお父さんとお母さんの借金のことを聞きたい。
 電話がダメなら真の実家に行くしかないかもしれない。
 新幹線代がかかるけれど、大和のおかげで月々のお金に少しだけゆとりができてきたし。
 
 今週はパン屋だから来週にでも行ってみようかな。
 できれば行きたくないけれど。
 七海はもう一度叔母に電話をしてみたが、やはり叔母が出ることはなかった。

    ◇

「おいしい~~!」
 七海は抹茶と小倉の食パンを頬張りながら思わず笑顔になってしまった。

 今日はパン屋の店主と約束した小倉抹茶パンを試食する日。
 七海と大和は四時半頃にパン屋を訪れた。
 
 店を閉めるのを手伝い、手を洗って厨房に。
 久しぶりのパン屋のいい匂いに、七海はもう懐かしいなと思ってしまった。
 一ヶ月ちょっとバイトしただけなのに。

「抹茶の色、きれいですね」
「火を通しすぎると色が悪くなるから、時間調整が一番大変だったよ」
 パン屋の店主は試行錯誤したと笑う。

「このパンに卵は使っていますか?」
「使っているよ」
「卵なしの生地は焼くと白くなるので、もう少し抹茶の発色が良くなるのでは?」
「え? 弁護士……だよね? まさかパン屋かい?」
 すごいなと感心しながら店主は冷蔵庫から寝かせていた卵不使用のパン生地を取り出す。
 抹茶の粉を混ぜ、広げた生地にあんこを乗せると慣れた手つきでくるくると巻いた。
 
「これなら卵アレルギーの人でも食べられますね」
 バイトをしている時、卵を使っていないのはありますか? と聞かれたことがある。
 せっかくの季節限定だから、できるだけ多くの人に食べてほしい。
 
「きれいな色になるといいですね」
「最優先は味だけれどね」
 デニッシュ生地やベーグル生地なども試し、どんどん焼いてみる。

「好きな形で焼いてみるかい?」
「いいんですか!?」
 七海は目を輝かせながらパン生地を受け取り、初めて触ったパン生地の弾力に驚いた。

「はい、弁護士さんも」
「俺も?」
 断る間もなく生地を目の前に置かれた大和は、服の袖をまくる。

「こうやってパン生地の中の空気を抜いて……」
 店主の見本を見ながら生地をこね、成形しているはずなのに。

「……どうして大和さんはちゃんとできて、私のは丸にならないんですか?」
 おかしい、おかしい、絶対におかしい。
 同じ生地で、同じ見本を見ながらやっているはずなのに。

「七海は不器用だな」
「大和さんが器用すぎるだけです!」
 私は普通ですと言い張る七海を笑いながら、大和は生地を伸ばし、くるくるっと捩じってあっという間に成形を終わらせてしまった。