ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 父が病気で亡くなったのは、七海が小学3年生の時。
 母が帰らぬ人となったのは、小学6年生の卒業式の日だった。
 
 母の弟は、真の父。
 七海は叔父に引き取られ、離れに住まわせてもらいながら中学・高校に通った。
 そして高校卒業とともに上京したのだ。
 
「遺産について誰か聞ける人はいるのか?」
「お世話になった叔父さんと叔母さん……?」
「一度聞いてみるといい」
「そう、ですね」
 毎月当然のように叔母に送金していたが、詳細を聞いた方がいいのかもしれない。
 いくら借金が残っているのか、いつまで払わなくてはならないのか。

「聞きにくければ、俺が弁護士として聞いてくるが?」
「あ、大丈夫です。真くんのご両親なので、聞けます」
「そうか」
 お金のことは叔母に聞きにくいけれど、いくらなんでも大和にそこまでお世話になるわけにはいかない。
 明日の昼間に電話してみようかな。
 叔母さん、買い物に行っていないといいけれど。

「ところで、七海」
「はい?」
 大和が箸で持ち上げたのは、つながった輪切りにしたはずのキュウリ。
 
「えぇっ? ごめんなさい」
「器用だな」
 タコとキュウリの酢の物のキュウリがほとんどつながっている事態に、七海は慌てた。
 
「逆に食べやすいのか」
 つながったままのキュウリを口に入れると、「味は悪くない」と笑ってくれる。
 どんな失敗をしても許してくれる大和の優しさに、七海の暗くて重いモヤモヤな気持ちはすぐに消えていった。


 翌日、お昼休憩に真の実家に電話をしたが、叔母は出なかった。
 留守電にメッセージを残し、夕方もう一度電話をしたがやはり出ない。
 夜、もう一度かけても、翌日にかけても一度も繋がらない状況に七海は首を傾げた。

「真くん、叔母さんって旅行中?」
「家にいると思うけれど? どうかした?」
「あ、電話したけれど出なかったから。買い物中だったかも」
 またかけてみると七海は会話を早々に切り上げる。
 だが、その日も叔母が電話に出ることはなかった。