「ついでに前の派遣会社に謝罪させようと思っていたが、それはやりすぎだと孝仁に止められた」
「……孝仁って西九条弁護士?」
「あぁ。七海の次に派遣された人がパソコン操作に不慣れで、正社員の負担が増え、管理責任を問われた元係長が腹いせで七海に嫌がらせをしたのがパン屋被害の原因だ。もとを正せば、七海を不当解雇したせいだから」
そういえば、武田さんが新しい派遣は指一本でキーボードを打っているって。
その腹いせでパン屋に嫌がらせするなんて。
私のことが嫌いで派遣を辞めさせたくせに。
「七海を辞めさせた理由も、くだらない嫉妬だった」
「嫉妬?」
「経営会議で、最近資料が見やすいのは派遣のおかげだという意見が出たそうだ。優秀な派遣に当たると、係長が無能でも成果が上がったように見えるからラッキーだよなと陰口を叩かれたらしい」
「それで嫌がらせを始めるように……?」
思い返せば嫌がらせは急に始まった気がする。
私が知らない場所で、嫌がらせのきっかけがあったんだ。
「直接謝罪させた方が良かったか?」
「いいえ。二度と会いたくないです」
七海が真顔で答えると、大和は「だと思った」と笑った。
「次は七海の秘密を話してもらおうか」
大和は箸を手に取りながら、七海を揶揄う。
「私の秘密!? 私には大した経歴は……」
「いとこの男は、七海があそこにいるからインターンに来たのか?」
「えっ? 違います。本当に偶然で」
ごはんを食べ始めた大和を見ながら、七海も箸を手に取った。
具沢山なけんちん汁を飲み、身体を温める。
「真くんはひとつ年上のいとこなんですが、大学に通うために私より先に上京したので、ずっと連絡を取っていなくて」
「どうして連絡を取っていなかったんだ?」
「当時、私がスマートフォンを持っていなかったので、連絡手段がなかったんです」
なるほどと納得しながら、大和もけんちん汁を手に取った。
「うまいな」
「よかった!」
貧乏でもごはんと味噌汁は作っていたから、そのおかげかも。
煮物は光熱費がかかるからやらなかったし、作ったとしても野菜炒めくらいだった。
あとはうどんとか素麺とか、手軽に済ませる物ばかりで、料理らしい料理はしなかったけれど。
「七海の秘密は? 何かないのか?」
「えーっと、そうですね。秘密というほどではないんですけど、両親がいないことくらいでしょうか」
「そうか。だから一人でがんばっていたんだな」
大和にえらいなと言われた七海は、うっかり涙が出そうになってしまった。
大和は私が可哀想だなんて言わない。
同情することもなく、どうしていないのか詮索することもない。
やっぱり優しい人だ。
「俺は父がいない。この部屋は父の保険金で買ったから、共益費は払うが月々の家賃は払っていないんだ」
「えっ?」
「母が再婚するとき、父の全財産を俺に置いて行ったから、大学費用もそこから払った」
保険金……? お父さんの財産……?
手が止まってしまった七海に気づいた大和が、七海が思っていることと同じ疑問を投げかける。
「七海の両親の遺産は?」
「私、毎月借金を返済しているので、両親の遺産は負の遺産だったんじゃないかと」
「……借金?」
驚いた大和に、七海は小さく頷いた。
「……孝仁って西九条弁護士?」
「あぁ。七海の次に派遣された人がパソコン操作に不慣れで、正社員の負担が増え、管理責任を問われた元係長が腹いせで七海に嫌がらせをしたのがパン屋被害の原因だ。もとを正せば、七海を不当解雇したせいだから」
そういえば、武田さんが新しい派遣は指一本でキーボードを打っているって。
その腹いせでパン屋に嫌がらせするなんて。
私のことが嫌いで派遣を辞めさせたくせに。
「七海を辞めさせた理由も、くだらない嫉妬だった」
「嫉妬?」
「経営会議で、最近資料が見やすいのは派遣のおかげだという意見が出たそうだ。優秀な派遣に当たると、係長が無能でも成果が上がったように見えるからラッキーだよなと陰口を叩かれたらしい」
「それで嫌がらせを始めるように……?」
思い返せば嫌がらせは急に始まった気がする。
私が知らない場所で、嫌がらせのきっかけがあったんだ。
「直接謝罪させた方が良かったか?」
「いいえ。二度と会いたくないです」
七海が真顔で答えると、大和は「だと思った」と笑った。
「次は七海の秘密を話してもらおうか」
大和は箸を手に取りながら、七海を揶揄う。
「私の秘密!? 私には大した経歴は……」
「いとこの男は、七海があそこにいるからインターンに来たのか?」
「えっ? 違います。本当に偶然で」
ごはんを食べ始めた大和を見ながら、七海も箸を手に取った。
具沢山なけんちん汁を飲み、身体を温める。
「真くんはひとつ年上のいとこなんですが、大学に通うために私より先に上京したので、ずっと連絡を取っていなくて」
「どうして連絡を取っていなかったんだ?」
「当時、私がスマートフォンを持っていなかったので、連絡手段がなかったんです」
なるほどと納得しながら、大和もけんちん汁を手に取った。
「うまいな」
「よかった!」
貧乏でもごはんと味噌汁は作っていたから、そのおかげかも。
煮物は光熱費がかかるからやらなかったし、作ったとしても野菜炒めくらいだった。
あとはうどんとか素麺とか、手軽に済ませる物ばかりで、料理らしい料理はしなかったけれど。
「七海の秘密は? 何かないのか?」
「えーっと、そうですね。秘密というほどではないんですけど、両親がいないことくらいでしょうか」
「そうか。だから一人でがんばっていたんだな」
大和にえらいなと言われた七海は、うっかり涙が出そうになってしまった。
大和は私が可哀想だなんて言わない。
同情することもなく、どうしていないのか詮索することもない。
やっぱり優しい人だ。
「俺は父がいない。この部屋は父の保険金で買ったから、共益費は払うが月々の家賃は払っていないんだ」
「えっ?」
「母が再婚するとき、父の全財産を俺に置いて行ったから、大学費用もそこから払った」
保険金……? お父さんの財産……?
手が止まってしまった七海に気づいた大和が、七海が思っていることと同じ疑問を投げかける。
「七海の両親の遺産は?」
「私、毎月借金を返済しているので、両親の遺産は負の遺産だったんじゃないかと」
「……借金?」
驚いた大和に、七海は小さく頷いた。



