ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

「あ、でもご飯の準備のあとでお願いします」
「食べ物に負けるくらいの興味ということだな」
「ち、ちがっ。そんな食いしん坊じゃ」
 気まずかったはずなのに、雰囲気はすぐ元通りに。
 
 マンションに戻った七海が食事の支度をしている間に、大和は洗濯物を取り込んでくれた。
 家賃を払う代わりに私が家事をやるはずなのに、結局いつも大和は手伝ってくれるのだ。

 2ヶ月たってもなかなか上達しない料理をダイニングテーブルに並べた七海は、アイロンをかけていた大和を呼んだ。

「置いておいてくれれば、私がアイロンしたのに」
「洗濯物を取り込んだついでだ」
 全然ついでじゃない気がするけれど。

「じゃあ、そろそろ大和さんの秘密を聞かせてもらいます!」
「まるで不貞を問い詰められるダメ男みたいだ」
 ダイニングに座った七海を揶揄いながら大和も椅子に座ると、財布から2枚のカードを取り出した。
 
「こちらが医師資格証、こっちが弁護士の身分証明書」
「えっ?」
 さらに大和は名刺ケースから名刺を2枚取り出す。

「玉響総合病院の医師、西九条弁護士事務所の医療弁護士」
 手渡された2枚の名刺に七海は絶句した。

「医師は非常勤。弁護士は誤診や医療ミスの疑いがある場合のみ。これで七海が聞きたかったことは解決したか?」
「……すごすぎて、どこからツッコんだらいいのか……」
 真が私に西九条弁護士事務所の人と一緒に住んでいると言っていたのは、大和が所属しているからだったんだ。
 ごめん、真くん。
 なに意味がわからないこと言ってるの? って思っていたけれど、真くんが正解だった。

「パン屋の店主さんと知り合いなのは?」
「七海には黙っておこうと思っていたが、前の会社の係長だった男が酔いながら店に来て暴れたんだ」
「係長が……?」
 あの人、私が辞めた後もパン屋に来たんだ。
 しかも酔っぱらった状態で来るなんて酷い。

「パン屋の店主とは示談金で和解、会社にも報告して係長から一般へ降格と地方転勤、ついでに言うと奥さんとは離婚したようだ」
「転勤? 離婚?」
 待って。情報量が多い!
 
「七海に対しては警察から接近禁止命令を出してもらっているから、おそらく近づいて来ないだろう」
 地方に飛ばされてそれどころじゃないだろうしと大和は口の端を上げた。