ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 裁判所から戻ってきた真に、一緒に駅まで帰ろうと言われた七海は、根掘り葉掘り聞かれることを覚悟した。
 だが、なぜか真は大和のことを何も聞いてこなかった。

「裁判所の近くのうどん屋、ダシがきいてて」
「へぇ~」
 どうして何も聞いてこないのだろう?
 どうしてすぐに一人暮らしをしろって言わないのだろう?

 駅の階段を降り、改札に向かって歩く間も、真は雑談しかしなかった。

 なんで?
 朝はあんなにお説教モードだったのに。
 西九条さんから大和のことをなにか聞いたのだろうか?
 弁護士じゃなくてお医者さんだって聞いて安心したとか?
 弁護士がダメな理由はわからないけれど。自分だって弁護士になるくせに。
 
「あのさ、連絡先……聞いてもいいか?」
 真は首に手を当てながら、立ち止まる。
 真がこの仕草をするときは、なにか言いたいけれど言えない時だ。
 私が真の家の離れで住むことになった時も、高校受験した時も、いつもこの仕草をしていたが何か言われたことはなかった。

「いいよ。真くんのも教えて」
 二人でスマートフォンを出し、連絡先を交換する。

「なんでホッとしてるの?」
「断られると思ったから」
「どうして?」
「七海はいつも何も教えてくれないから」
 それは叔母さんに「うちの真には近づかないで」って言われていたからだけれど。
 おんぼろアパートを引っ越したことを教えなかったのも、上京1年目に年賀状を送ったら「居場所なんて知りたくないから送って来るな」って叔母さんに怒られたからだけどね。
 
「これからは連絡取れるね」
「そうだな」
 私が叔母さんに嫌われていたこと、きっと知らないよね。

「叔父さんと叔母さんには、私と会ったことは内緒ね」
「えっ? 悪い。初日に……ごめん」
 しまったという顔をしながら真が七海に謝罪する。

「あ、いいよいいよ。気にしないで」
「……なんで」
「私、ずっと派遣で。やっと社員になれたから、自分で言いたかっただけ」
 嘘だけれど。