ねじれの位置の恋人 ~世界でたったひとり、出会ってはいけなかった人~

 ここは大和に紹介してもらった事務所だけれど、大和は玉響総合病院の医者だ。
 真はなにを言っているのだろうか?

「んー、とりあえず、始業時間だから仕事しようか」
 西九条の言葉で七海と真はスッと離れる。
 真の視線が痛いです、どうにかしてください西九条さん。
 七海は受付に座り、背中に感じる視線をできるだけ気にしないようにしながら、今日のスケジュールを確認した。

   ◇

 真は、頭を抱えながら盛大な溜息をついた。
 ここは裁判所から歩いて数分のうどん屋。
 西九条から裁判所に書類を提出する方法を教わったあと、昼食に誘われて入った店だ。

「……絶対に嫌われた……」
 あんなふうに言うつもりはなかったし、こんな気まずい雰囲気になるはずではなかったと、真は反省する。

「森口ってさ、七海ちゃんのこと好きだよね?」
「……わかりやすくてすみません」
「ま、本人には伝わっていないけれどね」
 青春だなぁと笑う西九条も、そんなに歳は取っていなさそうなのに。
 真は連れ出してもらえて感謝していると西九条に伝えた。

「森口と七海ちゃんってさ」
「いとこです。七海の母親と俺の父親が姉弟で」
「だから仲がいいんだ」
 大人しい印象だった七海の意外な姿を見たと、西九条は笑いながら水を飲む。
 
「実は高校時代はあまり話せなくて」
「それは思春期特有の恥ずかしくてってやつ?」
 すべてを見透かされてた真は、ベタですみませんと頭を掻いた。
 
 だしのいい香りがする天ぷらうどんが目の前に運ばれてくる。
 真は箸を手に取ると、揚げたての天ぷらから頬張った。

「おいしいです」
「裁判所に来ると、ここかもう一軒の二択だから」
 かつ丼屋もおいしいよと言われた真は、今度行ってみますと答える。

「七海ちゃんってチワワみたいだよね」
「チワワ……って犬の?」
 小さくて、キャンキャン吠えるけれど全然怖くなくて、くるくる回るように一生懸命だと西九条に言われた真は、なんとなく納得してしまった。

「七海が中高のとき一緒に住んでいたんですけど、1歳差なので受験勉強ですれ違いばかりで。あんなふうに言い争うのははじめてなんです」
「いとこなのに一緒に住んでいたの?」
「あ……、そうですね。少し事情があって、七海をうちで預かっていたんです」
 うどんをすすりながら「へぇ~」と軽く流してくれた西九条に、真はホッとした。
 七海は両親がいないことを、どうやら弁護士事務所では話していないようだ。

「あの、西九条先生。七海と一緒に住んでいる大和さん? ってどんな人ですか?」
 昨日は弁護士だと聞いた気がするのに、七海は医者だと言っていた。
 まさか詐欺師ということはないだろうが、どんな人なのかは知っておきたい。

「んー、そうだなぁ。頭が良くて努力家で、真面目だけれど不器用な男……かな」
 あ、見た目もいいよと付け加えながら西九条は箸を置いた。

「付き合ってはいないらしいけどね」
「えっ?」
「ルームシェアらしいよ」
 安心した? と西九条に笑われた真は、首の横に手で触れる。
 大きく深呼吸したあと、「でもまだ不安です」と心の内を明かした真に、西九条は「青春っていいねぇ」と笑った。