「家賃はいらない。光熱費も食費も不要」
「え、でも」
「そうすれば、コンビニを辞めてもなんとかならないか?」
家賃の4万円と光熱費1万円がなければそれだけで月5万円も余裕ができる。
パン屋のアルバイトだけでは生活に余裕はないけれど。
「正社員を狙ってもいい。資格が取りたいならここで勉強すればいい」
「でも、佐野さんには何のメリットも」
「掃除と洗濯をしてもらえると助かるんだが」
洗濯が一番苦手なのだと、佐野は真剣な顔で七海を見つめる。
ハンガーに一枚ずつ干さなくてはならないのも、それを取り込むのも、取り込んだ後に畳むのも本当に嫌だと語る佐野に七海は首を傾げた。
今この部屋を見る限り、掃除も洗濯も困っているようには見えない。
私に気を遣ってこんな風に言ってくれているのはバレバレだ。
「あと、買い物もしてくれると助かる」
ネットスーパーで注文したのに受け取りできず、再配達になることがよくあると佐野は肩をすくめた。
「本当にお世話になっても……?」
「あぁ。部屋は空いている」
どうしよう。
この人がいい人なのはわかっている。
見ず知らずの体調不良だった私を助けてくれて、食事をしたかも気にしてくれて。
でも男性と同棲?
付き合ってもいないのに?
「ルームシェアだと思えばいい」
悩みをかき消すかのような、見透かされたような佐野の言葉に、七海の心は決まった。
「いつまでなら来月の家賃は払わなくてもいいんだ?」
「すぐ聞きます」
急いで大家さんに連絡し今月で退去したいと告げると、もうアパートを取り壊そうと思っていたから良かったと大家さんに感謝されてしまった。
もちろん来月の家賃はなしでいいと。
「荷物は明日、パン屋が終わったら運ぼう」
「ありがとうございます。佐野さん」
「大和でいい。俺も七海と呼ばせてもらう」
夕飯をご馳走してもらった七海は、大和におんぼろアパートまで送ってもらった。
こんないい人と出会えてよかった。
コンビニのバイトを近いうちに辞めたいと店長に相談すると、すでに大和から連絡をもらい、七海の代わりに男子大学生を紹介してもらったから問題ないと言われて拍子抜けした。
急に辞められたら困るよと言われることを少しだけ期待した自分が恥ずかしい。
翌日、少ない荷物はあっという間に運び終わり、大家さんに鍵も返却。
小さな冷蔵庫と電子レンジは大家さんが引き取ってくれた。
高校卒業と同時に上京し、このアパートに住んで1年半。
毎月生活が苦しくていい思い出なんてないけれど、ここの家賃の安さのおかげで生きていけた。
お世話になりました。
七海は心の中で感謝しながら、おんぼろアパートの外観の写真を撮って別れを告げる。
ここから再スタートだ。
七海は鞄の中に入った両親の位牌を大切に抱えながら、大和とマンションへ向かった。
大和が貸してくれた部屋はベッドもテレビもあるゲストルームだった。
おんぼろアパートと比べるまでもないが、広くて綺麗で明るい。
「明日から掃除と洗濯、あと買い物を頼んでもいいか?」
「はい! 大丈夫です」
洗濯機は使ったことがないドラム型の乾燥機付き。壁からアイロン台が出てくるなんて!
拭き掃除もしてくれるお掃除ロボットがいるので、私は不要では?
「ここは仕事部屋だから入らないように」
掃除もしなくていいと言われた七海は、わかりましたと頷いた。
お医者さんだから、きっと私が見てはいけない物がいっぱいあるのだろうな。
「食費と生活費だ」
急だったから今はこれしかないと渡された封筒の中には10万円。
「多いです」
私の食費は月1万円だったのに、こんなに気軽に10万円も出てくるなんて、やっぱり住む世界が違う。
「あぁ、そうだ。ここに住む条件」
「じょ、条件!」
そうだよね。条件はあるよね。
緊張した顔で見上げた七海を大和は笑う。
「一日三食、必ず食べること」
「……え?」
「約束だ」
まるで小さい子と約束をするかのように、大和は七海の頭をぐりぐりしながら必ず守れよと微笑む。
もしかして子どもだと思われている?
確かに背は小さいけれど。
これでも一応、19歳です!
どうして大和はこんなに親切にしてくれるのだろう?
駅で具合が悪かった私を介抱してくれたのはお医者さんだからとしても、こんなふうに部屋を貸してくれる必要はないのに。
私はありがたいけれど。
翌日から七海はお掃除ロボットが届かない棚やブラインドの掃除を行った。
でも、綺麗だけど?
私の掃除なんて必要ないのではないかと思うほど綺麗な部屋に七海は困った。
「え、でも」
「そうすれば、コンビニを辞めてもなんとかならないか?」
家賃の4万円と光熱費1万円がなければそれだけで月5万円も余裕ができる。
パン屋のアルバイトだけでは生活に余裕はないけれど。
「正社員を狙ってもいい。資格が取りたいならここで勉強すればいい」
「でも、佐野さんには何のメリットも」
「掃除と洗濯をしてもらえると助かるんだが」
洗濯が一番苦手なのだと、佐野は真剣な顔で七海を見つめる。
ハンガーに一枚ずつ干さなくてはならないのも、それを取り込むのも、取り込んだ後に畳むのも本当に嫌だと語る佐野に七海は首を傾げた。
今この部屋を見る限り、掃除も洗濯も困っているようには見えない。
私に気を遣ってこんな風に言ってくれているのはバレバレだ。
「あと、買い物もしてくれると助かる」
ネットスーパーで注文したのに受け取りできず、再配達になることがよくあると佐野は肩をすくめた。
「本当にお世話になっても……?」
「あぁ。部屋は空いている」
どうしよう。
この人がいい人なのはわかっている。
見ず知らずの体調不良だった私を助けてくれて、食事をしたかも気にしてくれて。
でも男性と同棲?
付き合ってもいないのに?
「ルームシェアだと思えばいい」
悩みをかき消すかのような、見透かされたような佐野の言葉に、七海の心は決まった。
「いつまでなら来月の家賃は払わなくてもいいんだ?」
「すぐ聞きます」
急いで大家さんに連絡し今月で退去したいと告げると、もうアパートを取り壊そうと思っていたから良かったと大家さんに感謝されてしまった。
もちろん来月の家賃はなしでいいと。
「荷物は明日、パン屋が終わったら運ぼう」
「ありがとうございます。佐野さん」
「大和でいい。俺も七海と呼ばせてもらう」
夕飯をご馳走してもらった七海は、大和におんぼろアパートまで送ってもらった。
こんないい人と出会えてよかった。
コンビニのバイトを近いうちに辞めたいと店長に相談すると、すでに大和から連絡をもらい、七海の代わりに男子大学生を紹介してもらったから問題ないと言われて拍子抜けした。
急に辞められたら困るよと言われることを少しだけ期待した自分が恥ずかしい。
翌日、少ない荷物はあっという間に運び終わり、大家さんに鍵も返却。
小さな冷蔵庫と電子レンジは大家さんが引き取ってくれた。
高校卒業と同時に上京し、このアパートに住んで1年半。
毎月生活が苦しくていい思い出なんてないけれど、ここの家賃の安さのおかげで生きていけた。
お世話になりました。
七海は心の中で感謝しながら、おんぼろアパートの外観の写真を撮って別れを告げる。
ここから再スタートだ。
七海は鞄の中に入った両親の位牌を大切に抱えながら、大和とマンションへ向かった。
大和が貸してくれた部屋はベッドもテレビもあるゲストルームだった。
おんぼろアパートと比べるまでもないが、広くて綺麗で明るい。
「明日から掃除と洗濯、あと買い物を頼んでもいいか?」
「はい! 大丈夫です」
洗濯機は使ったことがないドラム型の乾燥機付き。壁からアイロン台が出てくるなんて!
拭き掃除もしてくれるお掃除ロボットがいるので、私は不要では?
「ここは仕事部屋だから入らないように」
掃除もしなくていいと言われた七海は、わかりましたと頷いた。
お医者さんだから、きっと私が見てはいけない物がいっぱいあるのだろうな。
「食費と生活費だ」
急だったから今はこれしかないと渡された封筒の中には10万円。
「多いです」
私の食費は月1万円だったのに、こんなに気軽に10万円も出てくるなんて、やっぱり住む世界が違う。
「あぁ、そうだ。ここに住む条件」
「じょ、条件!」
そうだよね。条件はあるよね。
緊張した顔で見上げた七海を大和は笑う。
「一日三食、必ず食べること」
「……え?」
「約束だ」
まるで小さい子と約束をするかのように、大和は七海の頭をぐりぐりしながら必ず守れよと微笑む。
もしかして子どもだと思われている?
確かに背は小さいけれど。
これでも一応、19歳です!
どうして大和はこんなに親切にしてくれるのだろう?
駅で具合が悪かった私を介抱してくれたのはお医者さんだからとしても、こんなふうに部屋を貸してくれる必要はないのに。
私はありがたいけれど。
翌日から七海はお掃除ロボットが届かない棚やブラインドの掃除を行った。
でも、綺麗だけど?
私の掃除なんて必要ないのではないかと思うほど綺麗な部屋に七海は困った。



