伸びない……。
初めての歌ってみた動画、次は次はと鼻息荒く企画会議をした環と澪、仕方なく2人に付き合う紫遊。次なる動画を撮っても伸びず、その次も伸びず…。完全なビギナーズラック状態だった。

環「おかしい…。コレさ、もし漫画だったらさー…1発でバズって登録者100万人いって、大金持ちになって豪邸買うパターンじゃねぇの?なんで?オレ達の何が悪い?」
紫遊「知ってるか?世の中にはビギナーズラックという言葉があってな…」
環「お前、自分がどんだけ周りが羨む遺伝子受け継いだと思ってんだよー!こないだだって告白されてたじゃん!!しっっかりフッてさー!!」
紫遊「今は恋愛の気分じゃない」
環「ホントに同い年かよ…」

缶コーヒー片手に悠々とスマホを見る紫遊。
机に突っ伏して絶望状態の環。
スマホを真剣に見つめる澪。
相変わらずの3人だが、澪はコメントを読み漁り、動画を食い入るように見た。そしてひとつの結論にたどり着く。
最初の動画以外、どこか2人のバランスが取れずチグハグさがある。良さが引き立たず、どこか合わない。良さが喧嘩しているとでも言おうか。

澪「んー……」
紫遊「どうした?」
澪「悩んでる」
環「澪が欲しがってたロイヤルクッキーシュークリームの発売日、来週だよ?」
澪「違う違う」
環「じゃあ新作コスメ?」
澪「もー!違うの!」

何が噛み合ってない。何?この違和感の原因は何?何が不協和音を生んでるの…?
見つけてしまったからには解決したい。変わらず話しかけてくる環に、しー!と子供に言うようにすると少しずつモヤが晴れてきた。

澪「音だ」
環「なんか聞こえたん?」
澪「ちがうちがう。音、合わないの!」
紫遊「どういう事だ?」
澪「曲が台無しにしてる感じ…。なんて言ったら良いんだろ…、リンゴとバナナでパフェにしたいのにネギが来たみたいな…」
紫遊「なんの話しをしてるんだ……?」
環「リンゴとバナナとパフェとネギの話」
紫遊「ますます分からん…」

澪の中では全ての点と点が繋がった。
2人のイメージと、選んだ曲、これらが噛み合ってなかったのだ。紫遊はなかなか笑わないのに元気いっぱいの曲を踊っても歌っても、響かない。逆に環がセクシーな曲や踊りをやった所でベビーフェイスとのギャップが大きすぎて「頑張って背伸びしてる子」に見えてしまう。

澪「色が違いすぎたんだ…。色さえ整えば大丈夫かも!」
環「今度は色の話ー?」
澪「ちょっとだけ時間ちょうだい?調整できる曲があったら教えるから!」

そう言うと自分の席に戻り、イヤホンを付けてまた目線はスマホ。真剣な顔つきだった。時々何かを書いたり、うんうん唸ったりしている。コロコロ変わる表情が面白く、また不思議である。

環「紫遊ー、澪の話分かった?オレ全然わかんねぇ」
紫遊「澪の中では分かったんだろう」

その日からしばらくは澪のスマホを食い入るように見る日々が続いた。