「で、環。お前いつ月森さんの事名前で呼ぶんだよ」


夏休み間際の体育の日、蛇口で顔面の汗を洗い流しているとクラスメイトが茶化してきた。


環「は?」

男子生徒「だってあんだけ3人でくっついてんじゃん。紫遊だけ下の名前で呼んで、月森さんだけ苗字じゃん」

環「そりゃー女子だし…」

男子生徒「月森さんもお前のこと苗字で呼んでるよなー?でも紫遊の事は下の名前で呼んでるんだぜ?」

環「え!?そうなの!?」

男子生徒「そーそー。紫遊くんって言ってた。お前だけよそよそしくてさー、変な感じなんだよねー」


『紫遊はもう名前で呼んでもらってる』


その事実が環をフリーズさせた。
いいな、オレも名前で呼んでもらいたいな、沸き上がる感情、環はモヤモヤした。
なんで紫遊が先に…?オレが最初に話しかけたのに?


環「…とりま、オレ行くから!」

男子生徒「頑張れよー!」


タオルでガシガシと顔を拭き素早く着替えをした後教室に戻ると、そこにはすでに着替えを終えた2人が教室に居た。楽しそうに談笑してる。


『取られる』


環の中の何かが呟き、澪に話しかけた。


環「ねぇ…オレらいっつも3人だし、月森さんって言い難いから下の名前で呼んでいい?」

澪「いいよ。じゃあ私も、下の名前で呼ぼうかな?」

環「おっしゃ!なんか友だちって感じ!よろしくなー澪!」

環「もちろん、環くん」


あぁ……ダメだ。
名前を呼ばれただけでこんなに気持ちがふわりと跳ねて、とろけそうになる。ニヤけそうになる顔をぐっと堪え、自分の席に戻り突っ伏した。


環「……マズい。オレ…」


澪の事、好きだわ…。