私は自分の努力が水の泡になってしまうということに焦って冷静に状況を見られず、泣き崩れるという失態までしてしまい恥ずかしい。

遊びたいもなにも、姉は生まれてからずっと朝から晩まで好き放題しているではないか。
隠居した後も、一緒にいてもらえると信じている哀れな皇太子を思うと笑ってしまう。

せいぜい、彼が彼女を囲えるのは彼が皇位を退くまでだ。
それ以上、彼女が彼の機嫌を取り側にい続ける理由はない。

「そうですよ。このままだと、第4皇子は戦死するまで出兵され続けます。だから、私は彼が逃げられるようにしました。今頃、新しい名前で過ごしているはずです」

レナード様が言い当てたのだから、白状してあげるのがフェアだろう。
どうせ、どこの国に逃したのかも分からないだろうし、レナード様が私が彼を逃亡させたことを明らかにして得することは何もない。

第4皇子の安全は保障されている。
レナード様には私が何故そんなことをしたのかさえ理解できないはずだ。

「ひゃっ! やめてください」
急に彼が私の手首を握ってきたので、驚いて持っていた刺繍針が落ちてしまった。
彼は、私に触れないという約束なのに、また約束を破ってくる。
私はこの天国のような生活を続けたいのに残念だ。

本当は深層心理で押し付けられた私を追い出したいとでも思っているのではなかろうか。

「ミリアは彼のことが好きなのですか? 前に彼となら結婚しても良いというようなことを言ってましたよね?ここから逃げたら、彼のところに行くのですか?」
彼は今度はやきもちをやくフリをしているのだろうか。
それなら全然嬉しくない、むしろ穏やかな時間を過ごしていた時に急に尋問がはじまったようで不快だ。

「なぜ、私が彼を好きだという話になるのか分かりません。彼の元に行くなんて考えたこともありません。確かに、彼は私と似ているのでレナード様よりは相性が良いかもしれませんね」
レナード様には理解できないだろう。
身分も名も捨てでも、生きていたい自由になりたいと願う気持ちが。

レナード様は生粋の貴族だから、平民として暮らすくらいなら貴族のまま死ぬことを選ぶ。
私は外では貴族だが、家では自分のことを貴族ではなく人間でさえない駒に過ぎないと感じていた。
だから、駒ではない人としての生活が得られるなら身分も名も喜んで捨てる。

「ミリアが彼を逃したということが露見したら、大変なことになることは聡明なあなたならお分かりですよね。どうして、あなたはそんなリスクを彼のために犯したのですか?」
彼が私の手首を掴む手が震えている。
私はそんな彼を哀れに思い洗いざらい話すことにした。