バーグ子爵令息が彼女に好意があるのは明白だった。
彼女に彼を受け入れて欲しくなどなかった。
でも、どこかで彼女は受け入れるのではないかと思っていた。
それほどに彼女の心は弱っていて、助けを求めているのをずっと見ていて感じていたからだ。
彼女は彼の提案を受け入れ、数週間後には彼と心を通わせ恋人同士になっていた。
初めての失恋に落ち込み、私は自分の卒業式の総代として何を話したのかさえ覚えていない。
「社交界の噂を、散々自分の魅力を駆使して操作したでしょ。バーグ子爵令息とミリアはただの友人関係だって。あなたって自分の性を使うのが本当にお上手」
ステラ・カルマンが魅惑的なまなざしを向けてくる。
100人いたら99人の男が屈するだろうその眼差しに、私は何も感じなくなるほどミリアに惚れ込んでいた。
「私、ラキアス皇子殿下に決めたましたわ。彼を皇帝にします。今日は、私にもボランティア活動をしてもらおうと思って、あなたと踊ることにしましたの。令嬢たちから聞いていたより、全然大したことないのですね。あなたが私の心を奪えたのは一瞬でしたわ。あなたが自分の魅力を駆使しても、ミリアにだって3日で飽きられますわよ」
自分がミリアに3日で飽きられると言われたことにショックを受けつつも、なぜいつも愚かな女のふりをしている彼女が自分に対し本性を晒しているのかが気になった。
「スコット皇子殿下ではないんですね。カルマン公爵はスコット皇子を皇帝にしたいとお思いですよ。それにしても、いつもの足りない女のふりはしなくて良いのですか?」
スコット皇子は皇族のプライドを感じないほど、カルマン公爵のご機嫌とりをする男だった。
ラキアス皇子は彼と同様に紫色の瞳を持っているが、政治など興味がなさそうなのんびりした性格をしている。
彼女が公爵の意に反した決定ができるということは、カルマン公爵家で注意しなければならないのは公爵ではなく、魔女ステラ・カルマンだ。
「足りない女を演じていたら、あなたと恋人気分は味わえませんもの。でも、サービスが悪すぎますわ。ミリアのことばかり考えているのがバレバレですよ。もっと、女には夢をみさせないと。あなたに出来ることってそれくらいじゃないですか?どうして、ラキアスにしたかって愚問ですね。2択の男から選ばなければならないなら、見た目の良い方を選ぶのは当然でしょ。私は皇族専門の娼婦だけれど、客を選べるのですよ」
彼女は平然とした態度で、自分を娼婦などと言っている。
姉妹なのに、お城に閉じ込められたお姫様のようにみえるミリアとは正反対だ。
世間知らずのラキアス皇子など、彼女の手にかかれば操り人形だろう。
皇室も毎度カルマン公爵家の紫色の瞳の女を娶っては、公爵家に力を奪われ続けている。
紫色の瞳を持ったカルマン公女は、無害で愚かな仮面をつけた魔女だということになぜ気がつかないのだろう。
紫の瞳の子孫を確実に残したいという意識が、判断能力を鈍らせているのかもしれない。



