本当はカルマン公爵の次女と交流したいなどと露ほども思っていなかった。
汚い不正や横領をし、皇室と密接な関わりを持つことばかりに囚われるカルマン公爵家の娘だ。

それにしても、カルマン公爵はてっきり第5皇子を養子にして後継者にすると思っていた。
公爵家には2人の娘がいる、紫の瞳を持ち社交界の華と言われるカルマン公女と、赤い瞳の次女だ。
長女の紫色の瞳を持ったステラ・カルマンの心を射止めれば皇太子になれる。

いつだって、注目を集めていたのは長女だった。
次女は社交界デビューをしていたのだろうか?
全く記憶にはない。

私にとって舞踏会は終わりの瞬間まで、とにかく令嬢たちの相手をしなければならないボランティアの時間だった。
この美しいおとぎ話の王子のようなルックスに生まれたことによる宿命だ。

「レナード様のお手を煩わせないように、列に並ぶようにさせました」
したり顔で言う伯爵令嬢に微笑みながら感謝を言うと、彼女は何もかも捧げてきそうな瞳で見つめてきた。

本当のことを言えば、迷惑な話だ。
舞踏会で流される曲数ぐらい把握していて欲しい。

いつも、全曲が終わった後にすぐ後に並んでいた令嬢が泣き出す。
どうでも良い女の愚痴を聞き、慰めなければならない無駄な時間を過ごすはめになる。

「申し訳ございません。お付き合いはできません」
帰宅しようとしていた時に、アカデミーでは珍しい女性の声がして思わず振り返ってしまった。