確かに彼は魅惑的で女の脳を溶かすような魅力がある。

だからと言ってその魅力を使って、彼が私を誘惑する必要は全くないはずだ。
そもそも貴族間の結婚に感情などいらないのに、なぜ彼は執拗に私に迫っているのかを考えれば答えは簡単だった。

私のことを愛しているかのように振る舞う必要は全くない。
愛し合って結婚するような高位貴族などほとんどいない。

彼の行動の違和感に集中することで、私は彼の与えるときめきの連鎖から脱しはじめていた。

私を自分に惚れさせることで、利用するつもりなのだ。
その結論に達するまで、あまりに惑わされ過ぎて3日も掛かってしまった。

「サイラス・バーグなら合格だったとでも言いたいのですか? 本当にミリアは彼と結ばれるつもりがありましたか? 彼を男として、人としてみていましたか? ミリアは彼を利用し尽くしただけではありませんか?」

レナード様ははいつも私に対して甘い雰囲気を作るようにしていた。
でも、今、一切の甘い雰囲気を消して私を問いただしている。
やっと、まともに私と話す気になってくれたということだろうか。

「失恋して傷心している女性に対して本当に失礼ですね。私と彼の何が分かるというのですか? ご自分は何もかもサイラスに勝っているから、当然、私の心も得られると思いましたか? 優れている遺伝子を求めるのは女の本能らしいですものね」

私は彼に振り回された3日間を思い出しながら自重気味な笑いが漏れそうになった。
「周りの人間はすべて詐欺師」だという父の教えを思い出せば、彼は最高の詐欺師だ。