泣いてはいけないとわかっていても、涙が溢れそうになった。
私の頰を伝った涙は、彼が誓いの口づけの時にそっと拭ってくれた。
「ふふ、レナードすごい人数ですね。実は誰が誰だかわからないです」
式が終わり私と彼は列席者1人1人に挨拶をした。
こんなに丁寧に全員と接する結婚式を見たのははじめてだ。
彼らはレナードにとってはお客様だからかもしれない、この大変さも彼の妻になれたということを実感できて嬉しい。
「私は、実は全員わかります。困ったことがあったら言ってくださいね」
レナードが私に優しく耳元で囁いている。
確かに、彼の挨拶は一辺倒ではなくて相手の趣味や性格まで把握していないとできない挨拶をしている。
私も彼の妻として、しっかり顔を覚えられるようにならないとならない。
彼の妻になれるなんて、本当に夢が叶うなんて、これから彼のために生きられるなんて、こんな幸せなことがあろうか。
「あの、実は気になっている方がいるのです。私たちと挨拶をする列に並ぼうとしないで、皇帝陛下の方に近づいている方がいます⋯⋯」
私がそっと視線を向けると、彼が私の視線を追ってその女性を見つけた。
赤い髪が揺れていて、遠目に見ても美しい方だというのがわかる。



