「ひいらぎ、ひいらぎ。……ひいちゃん!」

「……えっ?」

「大丈夫……?」

 心配した母の顔が俯いた私の顔を覗き込んでいた。

「……ん、大丈夫……かな」

 そう言い、母ににこり笑って返事する。

「大丈夫じゃないじゃないの……?」

 だって……。

 そう続けた母は私の頬を掴み、軽く撫でてくれた。

「あなた、泣いてるじゃない」

「……え?」

 母が撫でてくれたところは、体積が減ったからか次第に冷たく感じ、反対の頬を触って涙が流れていたことに気づいた。

 周りを見渡せばしんとし、耳を澄ませてもすすり泣きやひっそりした話し声しかしない。

 雨も降っていないのにじめじめとした陰鬱な空気。

 私は何してるんだ? なぜ泣いていたんだ?

 白を基調とした内装の室内を見渡して気づく。

 周りの黒い礼服の人々が並ぶ中、前列の黒い背中の合間から見えるものに。

 春野ケイが歯を見せて笑っている写真が立てかけられていた。

 ここは葬式場。春野ケイの通夜を終えたところだった。

 その事実を今になって突きつけられたことに気づいた。

 ……嫌だ、あの子が死んだなんて。
 思いたくない! 分かりたくない! 知りたくない!!

「うわああああぁぁぁあ!!!」



 私はその場に崩れ落ち、母に支えられた。

 母の腕の中で泣きじゃくり、温かな胸を涙で汚すことしか、今はできなかった。