「何か変わりましたか?」

 病室で二度目に会った彼は全て知った顔をしていた。

 なんだよ。何なんだよ、お前。

「その様子じゃ何も変わらなかったみたいですね」

 ここまでしたのに、なぜ死ぬんだよ。

 なぜ……。

「センパイ、こっそり屋上行きませんか」

「……うん」

 ……いいよ、そんなの。行かなくて。

 水色の病院服に身を包んだ彼。

 彼は、その服より色の濃い空を見上げていた。

「センパイ、こうしてみるとオレたちちっぽけじゃないですか?」

「……そんなの知らない」

 私はただ俯き、無愛想に答えた。

「あれ、あんなに明るくなったセンパイが逆戻りですか? あれ~?」

 なぜへらへらしてられるんだよ。

「ま、こんないい天気を見てると気分晴れると思うんですけど、オレだけかな?」

 知らないよ。

「もういいでしょ。そろそろ部屋に戻ろう」

 彼は白いフェンスに両手で掴まり、よっよっと身体を後ろに倒したり起こしたり。

 室内に入ろうと振り返ると、彼も肩を連動させて振り返ってきて。

 表情は見ていないけど、笑ってた気がした。

「私、もう戻るね」

 そう言い歩き出すと、しばらくして彼の声が聞こえて。

「センパイ、じゃあね~」

 何バカ言ってるの。

 軽い切迫感を感じて振り返った。

 そして突然、彼に向かって走り出した。

 彼はフェンスの向こう側にいた。

 それは、この屋上、五階もある病院の下の土地が顔を出せば見えるわけで。

 え? 何!? やめて! それ以上動かないで!

「じゃ!」
 そう軽く手を上げ、振り返りがちに空へ倒れ込む彼は、風を孕むように手を広げていた。

 刹那に見えた横顔は、悲しいほど優しい、覚悟を決めた笑顔だった。

 その後は、あっという間に時が過ぎる。すぐに遠くにあるはずの地面で軽い打撃音が聞こえて。

 内包物がグチャッとひしゃげる音に私は悟ってしまう。

 女性の甲高い悲鳴や、男性のだらしない叫びが聴こえて、私はその場に崩れ落ちた。



 …………なんで。