万年雪に覆われた山々を越え、
天と地の境と呼ばれる聖域――天啓に、
各国の国主たちが次々と到着した。

五幻獣を祀る神殿は、
白瑠璃のような石で築かれた壮麗な建物で、
どこか現世離れした静けさに満ちていた。

十二年年ぶりの神事。
戦火を一時休めた諸国の主たちは、
それぞれの思惑を胸に、
冷ややかな挨拶を交わしていく。
「……久しいな、霜華国の国主殿」
とある国の老王が声をかけてきた。
穏やかな声をしているが、
数年前に刃を交えた国の主だ。
「えぇ」
と短く応える凌暁は、
その顔に一切の感情を浮かべなかった。

凌暁の背後で、雪蘭はただ黙って見守る。
彼女にとって、
これほど多くの国主が一堂に会する場は初めてだった。
背中に感じる刺すような視線。
国主だけでなくその正妻たちも
互いに値踏みするように見合い、
華やかな衣の下に冷たい野心を隠している。
――この中で、自分はどう見えているのだろう。
そう思うと胸の奥が少し苦しくなった。



やがて、天啓神殿の大広間に
五幻獣の名を呼ぶ開闢の儀が始まった。

巫女の低い声が響き、空気が震える。
地の底から湧き上がるような音と共に、
床に刻まれた五つの紋が淡く光り始めた。
「いよいよ、始まるのね。」
誰もがその淡い光を凝視し、
次に何が起こるのか固唾をのんで見守る。
しかし――
光はすぐに消え、何事も起こらなかった。

神官が沈痛な面持ちで口を閉じる。
「……神はまだ、眠りの内にあるのだろう。」

その後も五幻獣を降臨させる神聖な祈りが続き、
やがて儀式は静かに幕を下ろした。