初めて沙耶に会った時から、二ヶ月が経った。
ピロン、と鳴ったスマホを覗き込むと、通知が来ていた。
もうそのことには慣れて、一目でメールが届いたんだと分かる。
【二時間ほど後に、会えませんか?】
その一文。 迷惑にならないようにと考えているのか控えめな一言に、僕は返信した。
【いいよ。どこで会う?】
どちらからというわけでもなく決まった、三週間に一回の待ち合わせ。
それなのに、前回から二週間目に届いたメッセージに、首を傾げた。
【予定が空き、私と会っても良いと判断した場合は、連絡を下さい】
一番初めに送られてきたメッセージ。
あまりに他人行儀な文に、一言ずつ返す日々が続いた。
【今日は会える】
【でしたら、初めて会った、あの通りで待ち合わせでよろしいでしょうか?】
【OK。いつ会う?】
【三十分後、待っています】
そんなメッセージで、毎回沙耶と待ち合わせていた。
送り合っているのは、あまりに拙い文。
女と連絡を取りあうなんて初めてで、どこか距離感があるのが分かる。
今日もいつもの場所で会うのだろうと思って支度し、時計を確認する。
ピロン、また音を立てて通知を知らせたスマホに、すっと手を伸ばした。
【雨口駅で会うことは可能でしょうか】
雨口駅……いつもの待ち合わせ場所よりも遠い、小さな駅だ。
いつも会っているのは、小さい、路地のような瑞端通り。
なんとなくそこで会うことになっているのだが、突然の変更に少なからず驚いた。
【良いけど。なんで?】
沙耶は返信が遅くて、五分はかかる。
数分待っていると、メールが届いたことが通知された。
【理由は、直接会ってお伝えさせて頂きます】
普段はこちらの意見を伺うような言葉遣いの沙耶。
今回はいつもと少し違い、まるで決定事項のような伝え方だ。
【分かった】
そう送ると、カバンを肩にかけ家を出た。
沙耶、急にどーしたんだろ……。


