ホワイトデーから、少し経った。
街はすっかり春の空気に変わって、
彼女の制服の上着も、少しずつ軽くなってきた。

あの日の“キス”から、まだ二週間。
付き合い始めてからの日々は、
どれも少しぎこちなくて、
それでも全部が新しかった。

「ねえ、春休み、どこ行く?」
放課後のカフェ。
ストローでアイスカフェオレを混ぜながら、彼女が訊く。

「うーん……人が少なくて、静かなとこがいいな」
「静かなとこ?」
「うん。たとえば、川沿いとか」

彼女は一瞬考えて、
「じゃあ、お弁当持って行く?」と笑った。
その笑顔が、春の陽だまりよりも眩しかった。