ホワイトデー当日。
放課後の校門前、彼女が待っていた。
「チョコのお返し、用意したんだけど……受け取ってくれる？」
手の中の小さな袋を差し出す。
中身は、ラッピングしたドーナツと、短いメッセージカード。

彼女は袋を受け取りながら、
「ありがとう」と微笑んだ。
その笑顔が、バレンタインのときより少し柔らかくて、
その瞬間、彼の中で何かが“確信”に変わった。

「あと、もうひとつ、渡していい？」
そう言って、
彼は一歩、彼女に近づく。
近づいて、
ほんの一瞬だけ、唇が触れた。

それはたぶん、
チョコよりも甘くて、
ドーナツよりもあたたかい瞬間だった。

「これが、本当のお返し。」
彼が照れくさそうに言うと、
彼女は顔を真っ赤にして笑った。

その笑顔を見て、
彼はようやく理解した。
――プレゼントは形じゃない。
“気持ち”を渡すことが、
いちばんの贈り物なんだ。