放課後の旧校舎は、いつもと同じく静かだった。
カーテンの隙間から差し込む光が、埃の粒を金色に照らしている。
「……今日も、一人かぁ」
折りたたみ式の長テーブルに突っ伏しながら、星野かのんこと私は、小さくため息をついた。
ここ最近の悩みはただ一つ。
部員が、侵入部員が来ない!!!
私が勝手に作った部活『平和実行部』
もうすぐ、新入生の仮入部期間が終わるというのに、誰一人も見学に来てくれない。
もはやヤケクソ気味になっていた。
掲示板のクラブ一覧の中に“平和実行部”と書かれているのを見た先生が、「何の部活?」と首をかしげたのも無理はないかもしれない。
もはや、部活というより同好会だ。部員が一人しかいないので同好会と呼べるのすら怪しいが。
それに、活動内容すらあやふやなのだ。
(『学校のお悩みを解決します!』って書いたけど……)
誰も入ってくれなかった。
みんな、私が“視える”って知っているから。
不思議な目で見られたり、避けられたりするのにも、もう慣れた。
中学生になったら普通の子になろうって思ったのに……小学校の時のクラスメイトがバラしてしまった。
故に、私は俗に言うボッチというやつなんだけど。
校庭から聞こえる青春の一ページを切り取ったような笑い声が聞こえてくる。
(少し、羨ましいな)
――それでも、霊達は今日もここにいる。
「ねぇ、貴方。いつまで廊下の隅に立ってるの?」
私が声をかけると、白い影が一瞬揺れて消える。
(帰ろうかな、、、)
かのんが鞄を手に取ったその時だった。
――ふと、空気が変わった。
まるで時代そのものが、数百年巻き戻ったような感覚。
教室の時計の針が、カチリと音を立てて止まる。
「……誰?」
振り返ると、教壇の前に“それ”は立っていた。
質の良さそうな水色の和服に、どこか気品のある黒髪の青年。
その青年をじっと見ていたのがバレたのか、青年がこっちを向く。
目が合う。
「どうしたの?」
「え……」
「俺は、顕仁(あきひと)。よろしくね」
「えっと、顕仁さん?私は平和実行部の……星野かのんです。」
顕仁さんは、机に置いてあった徹夜で作った手作りの部活紹介ポスターを手に取り、まじまじと見る。
「かのんはえっと……平和実行部?ってやつに所属しているの?」
「え、あ、うん。お悩み相談みたいな活動内容なんだけど、部員が私だけで……」
あははと頭を搔いたら、顕仁さんはしばらく考えたすえ、手を打った。
「俺も、その平和実行部に入って良いかな?」
ぽかん、と私は口を開けたまま固まった。
幽霊は珍しくないが――幽霊が部員志願するなんて聞いたことがない。
「あれ、聞こえなかったかな?俺も平和実行部に入って良いかな?」
「……う、うん。じゃあ、ようこそ“平和実行部”へ……?」
顕仁さんは嬉しそうに微笑んだ。
(不思議な人だなぁ……)