私は立ち上がり部屋を出ようとすると、遠慮がちなノック音と共に見慣れたメイドが入ってきた。

「ヘルカ!」
私は実家ロレーヌ侯爵邸のメイドであるヘルカがフランシスを抱いて現れたので驚いてしまう。
そっとフランシスを受け取ると、彼はキルステンそっくりのアメジストの瞳を隠すようにすやすやと眠っていた。

「ビルゲッタお嬢様、あの時の猫だったんですね」
「キルステンから事情を聞いたの? ここにはどうして?」
「はい。キルステン皇太子殿下から、遠い地で不安な生活をしていただろうお嬢様を気遣って欲しいと言い使って参上した次第です」
私は心臓をギュッと掴まれたように胸が苦しくなった。