学校。

 恋の教室には、今日は新聞部の先輩達がやって来ていた。


「新田さん、今日は、家庭科室の冷蔵庫に、苺のミルフィーユが冷やしてあるわ。」


 伊鞠が言った。


「黒白王子のブロマイド完売のお礼に。今回のブロマイドのテーマは、『角砂糖より甘く溶ける』。今回も、いい写真ばっかりよ。」

「……甘め」

「だから、写真売るの辞めてくださいったら。」


 恋の席に来ていた宗介が苛立った顔で言った。


「ほんとに迷惑。僕たちの写真を売って部費にしてるなんんて。校長に言っても、止めてくれないんだ。」

「当然よ。黒王子は学校のスター。白王子と並んで、大人気のアイドルなんだから。そうそう、もう写真集の発売も予定してるわ。出版は学校の資料やアルバムを扱ってる会社なの。装丁とっても綺麗よ。」

「加納先輩横暴です。写真集なんておかしいですよ。僕たちは肖像権を手放してません。人集めしないでくださいよ。」

 恋の斜め前の席から振り返って呆れ顔で美風が言った。
 しかし伊鞠と桂香は美風を無視した。

「……美形の写真は恩寵」

「その通りよ。そうそう、写真集には、黒王子と白王子、どっちの王子と相性が良いかを診断する簡単な心理テストも付ける予定なの。ファンの中にそういうのに詳しい子居て。面白い趣向でしょう。」

「僕と相性が良かったところで、一体何になるっていうんだ。謎。無駄。意味不明。」

「畜生。僕は自分の写真やプライベートが一人歩きしてるのを黙って見ているしかないのか。」

「白王子、その通り。我らが黒白王子はもう公共の絶対的なスターなんだから。隠れようとしても無駄よ。黒白王子に逃げ場はない。」

「……極上男子」


 桂香とそう言ってから伊鞠は恋にくるりと振り向いて笑顔を見せた。

 
「だから新田さん、今日は家庭科室にケーキを取りに来て頂戴ね。」

「……」

「納得行かない。」


 
 恋は小さくため息をついて、伊鞠がさっきからチラチラさせている黒白王子のブロマイドを眺めるともなく眺めながら、伊鞠と宗介と美風が言い合うのを聞いた。