恋の学校には、朝のホームルーム前は読書をするという決まりがあった。
恋の読む本は恋愛ものだったり冒険ものだったりしたが、恋は小説に完全に浸るという事はできない様な気がしていた。
いつでも宗介や美風や現実の事が邪魔して、中々集中出来なかったからだ。
それはそれとして。
放課後。
「今日は僕は委員会があるから、一緒には帰れないよ。」
鞄を持った宗介が恋の机に来て言った。
「分かってるだろうね?。僕のいない間、樋山といちゃついたらこう。」
宗介は拳を作ってもう片方のてのひらにパン!と当てた。
それから日直で黒板を消している美風の方を睨んだ。
「……。」
「先に言って正解。じゃなかったらお前は樋山と喋ってただろうから。約束。良い?。お前は僕以外見ないの。」
「宗介……」
「分かってると思うけど、お前は僕のもので、僕はお前のもの。恋人なんだから、けじめをはっきりつけろよな。恋人とそれ以外。ちゃんと考えるように。」
「……」
「分かった?」
「……」
「返事。」
「ハイ。」
宗介は鞄を背負い直すと、じゃ、と言った。
「委員会行ってくる。恋約束守れよ。それじゃあね。」
「後でね、宗介」
恋が手を振ると、宗介はガラガラと戸を開けて教室から出ていった。
と、その後すぐ、黒板を消していた美風が歩いてやって来て、恋に呼びかけた。
「新田さん」
「樋山くん」
「ちょっと今日は提案」
美風は机の上に手を置いて体重を乗せた。
「2人で紅葉狩りに行かない?って話なんだけど。」
「ええっ」
恋は、困った顔をして、反射的に俯いた。
さっき宗介に注意されたばかりなのに、それでは酷すぎるというものだ。
「電車乗ってちょっと遠くの公園。どこ見ても綺麗なところ知ってるんだ。今紅葉が盛りだから、キミを連れて行きたくて。綺麗な景色が見れるの、保証するよ。帰りにもどこか寄ってさ。」
「ご、ごめんね、樋山くん。宗介が駄目って言うから」
恋が言うと、美風は考えるように首を傾げた。
「新田さん、聞きたいんだけど、これからそういう風に、僕の誘うの全部断る気?」
「え、いや、えっと」
「酷い。ただの友達だとしてもあんまりだ。僕たちはこんなに仲が良いのに、それを上野が邪魔してる。ねえ新田さん」
美風はそこでブラックな笑みを浮かべた。
「例えばだけど、駒井とか田山が、キミが狐って知ったらどうすると思う?」
「!」
「見てみたいなあ。驚いた駒井の顔、仰天する田山の顔。ねえ、僕の言いたいこと分かるよね?」
「お、脅しじゃない。」
「そう。脅し。」
美風はクスリと笑った。
「新田さんがあやかし狐なのは、上野と新田さんの秘密じゃなくて、僕と新田さんの秘密だ。僕の持ってる呪符を貼れば、キミは人では居られない。ねえ、バラしても良いのかな?狐。この秘密がある限り、キミは僕を断れない。可哀想にね。」
それからちょっとつまらなそうに、
「本当はこんな事言って誘いたくないんだけど、キミが来てくれないから。あーあ、僕の品格も地に落ちたな。残念。」
と言って机から手をのけた。

