「新田さん、今日みたいな日、ずっと覚えてると思う?」
スーパーボールの屋台から少し離れた所で、美風が飲んでいたラムネを片手に聞いた。
「僕はみんなで歩いた海の大通りとか、喧騒とか、そういうの忘れないと思うんだ。忘れても、きっとどこかで覚えてると思う。」
「樋山くん」
「スーパーボールは上野に任せて良かったよ。僕は加納先輩とやり合う気ないし。新田さんとこういう風にお喋りできる。」
どこかで花火があがって、ドーン、と音が響いた。
花火があがる度、美風の美しい顔がその花火の色に照らされる。
ところで屋台の前にしゃがんで、小言を言いながらスーパーボール掬いをしている宗介と伊鞠を尻目に、律は一人でたこ焼きを買いに行っていた。
律はたこ焼きを買うと、また恋たちの所へ戻って来て、そこで話し込んでいる美風と恋を見つけた。
「恋!」
「あ、律」
律は提げていたたこ焼き屋の袋を見せた。
「お腹すきません?。話なんかやめて、僕のたこ焼き、一緒に食べましょうよ。」
「せっかく新田さんと喋ってたのに……雰囲気壊さないでくれない?向井」
美風が言うと律は笑顔を作った。
「雰囲気って?。壊しますよお。樋山さんと恋をいい雰囲気になんてさせない。当たり前ですよ。恋の隣は僕の席です。ね?恋。恋、樋山さんに懐いちゃ駄目ですよ。樋山さんはいちゃつかないでください。」
「畜生。いい性格してんね、お前」
「よく言われます。ふふっ。」

