海の方へ歩いていくと辺りはもう随分暗かった。
海側のその大通りには明かりがついた屋台が連なって出ていた。
恋達は屋台を眺めながら海の方へ向かっててくてく歩いていった。
「綿あめ屋あそこでいい?恋。」
宗介が聞いたので恋は頷いた。
宗介は少し前の屋台でブルーハワイのかき氷を、美風はレモンの氷を買って食べていた。
恋は綿あめを受け取ると食べながら歩いた。
「いろんな屋台があるな。祭りはやっぱりかき氷だよな。」
「随分賑やかだねえ。見て見て恋射的がある。並んでるね。私やろうかな。当てられるかなあ、どうだろうね。」
「恋、お好み焼きとたこ焼き、どっちが良いと思います?。僕は両方買ってもいいんですけど、どっちが食べやすいでしょうね?」
「祭りの雰囲気良いわねえ。この喧騒、この混み具合。記事に映える小物って言ったら綿あめかりんご飴よね。」
伊鞠と桂香は途中りんご飴を買った。
そのまま歩いていくと、金魚すくい屋と射的屋のあとに、キラキラした芸能人の下敷きやカードやブロマイドを売っている屋台に出くわした。
「あ、芸能人のグッズ、私沢山持ってるよ。推し居るよ。探すとかっこいい人いっぱい居るよ。恋、興味ある?」
理央が聞いた。
「あんまり」
「駒井、恋に変な遊びを教えないで。恋、お前はあんなの興味持たなくて良いの。人の写真なんて無益なだけなんだから。持ってて何になるんだよ。僕はひとつも買った事ないよ。これからも絶対に買わない。買う奴の気が知れないよ。」
宗介が鼻を鳴らして言った。
「あら、そんな風に言うなんて。ああいうの、学校で大人気よ。舐めないほうがいいわよ。」
伊鞠が言った。
「大人気って、新聞部はそんな活動もしてるんですか。」
美風が聞くと、桂香が、鞄からラミネート加工された宗介と美風の写真を10枚ほど取り出して扇の様に見せたので、宗介と美風は絶句した。
「中等部の校舎裏で黒王子と白王子のブロマイド、販売してるのよ。」
伊鞠が言った。
「売れ行き絶好調。あくびしてる黒王子、読書をする白王子、なんでもござれ。」
「先輩、いい加減にしてくださいよ」
宗介が恨みがましく言った。
「僕も。僕の写真勝手に使うな。先輩方、やっぱどうかしてんじゃないですか。」
美風が苛立った表情で言うと、伊鞠はふんと鼻で笑った。
「絶世の美形は公共物。みんなのものよ。イコール、販売は自由で止められない。君達は黒白王子、恨むなら自分のルックスを恨みなさい。2人とも、超映り良いわよ。」
「ふざけやがって。そんな馬鹿な話があるか。絶対今日渡して貰うから、僕の写真。何があくびする黒王子だ。許可してない。隠し撮りいい加減にしてください。僕の写真を勝手に撮らないでください。部室使って変な事しないでください。ほんっと頭来る。」
「返してくださいよ、僕の写真。そんな風に使われたくない。写真撮られるの困ります。白王子も何も、僕は王子じゃないし白って分類も意味が分からない。人が自分の写真持ってるのが嫌だ。なんとなく気持ち悪いもん。不気味だ。虫唾。迷惑過ぎる。」
「なんなら収益2割でどう?。」
「要りませんよ。」
宗介が苛立った作り笑顔で言った。
「じゃあ……どうしようかしら。私は販売を続けたいし、上野くんと樋山くんは続けられたくない。」
伊鞠が言った。
「当ったり前。なんだと思ってんですか。」
「当然。僕たちの権利ですよ。ちゃんと返して貰いますからね。」
伊鞠は腕組みをすると仁王立ちして言った。
「じゃあ分かった。こうなったらスーパーボール掬い競争よ。」
「はあ?」
「私が勝ったら写真の販売は許可する。取材にも応える。そういう約束しない?」
「だから、納得いかない。僕たちの肖像権だって言ってるだろ。新聞部最低。」
「勝手に売るなんて異常だ。訴えますよ。良いんですか。」
「えーなにそれ面白そう。上野くんも樋山くんもやりなよ。きっと楽しいよ。」
いつでも軽いノリの理央に言われて、結局宗介が代表してスーパーボール掬い競争をやることになってしまった。

