花火大会の当日。
夕方になって、宗介と恋は、浴衣で駅前の日時計の広場に向かった。
そこで理央達と待ち合わせをしているのだ。
「恋!」
広場の花壇の上に立って恋達を待っていた律がぴょんと降りて恋の前に立った。
「会いたかった。しばらく振りですね。上野さんも来たのか……まあ良いですけど。」
「向井も来たのか。あーあ、僕は恋と2人きりで来たかったのに。あてが外れた。せっかく夜だし、海だし、祭りなのに、2人きりで行かないなんておかしい。納得行かない。」
「上野さんはあやかし狐じゃないんだから、彼氏面しないでくださいよ。恋には僕だって、樋山さんだって居るんですからね。まったく、あやかしはあやかしと付き合えば良いのに。同族には同族が釣り合って似合いですよ。邪魔ったらない。」
「勝手な事言って。あやかしはあやかしと付き合えって、つまりお前しかいないじゃんか。そんなの絶対認めない。お前なんかと恋は全然釣り合わないね。ったく。あやかしは恋以外は要らない。貴重なのも恋だけで良い。狐のチビの癖に。」
「新田さん」
「恋!」
少し遅れて美風と理央がやってきた。
「新田さん浴衣可愛いね。さっき駒井にも言ったけど、女の子はやっぱお洒落な方が映えるよ。写真に撮りやすいし。記念になるし。思い出になるしね。」
「樋山くんも浴衣似合ってるよね。クォーターと和風って案外相性良いのかも。上野くんと律ちゃんの浴衣姿も珍しいよね。」
「理央、これで全員?」
「ううん。えっとね、明日香は今日は部活で来れないって。多紀も家の用事だって。」
「えっじゃああと誰が来るんだよ。」
宗介がそう言った時、後ろからパシャリ、とシャッターを切る音がした。
振り向くと、そこには。
「お待たせ駒井さん。ちょっと遅れたかしら。」
「……。」
新聞部の伊鞠と桂香が浴衣を着てカメラを持って立っていた。
「うわ、出たよ」
宗介が言った。
「駒井は新聞部の先輩達と仲いいの?」
美風が聞くと、
「うん。メル友。ネタ探しに協力してるんだ。」
と理央が笑った。
「駒井さんにはお世話になってるわ。メインにしている三角関係の情報も貰えるし。駒井さんはメインの三角関係を一番近場で見ている確かな証言者なのよ。」
「駒井、先輩方に協力するなんて、迷惑もいいとこだぞ。」
「いつもいいコメント貰えて助かってるわ。今日も黒白王子の三角関係の記事作るためにカメラ持ってきたのよ。」
「……夕方モード。」
「そうそう。フラッシュ焚かなきゃこの時間は映りが悪いけど。抜かりなくやるわ。」
「へえー。良いこと聞いた。上野さんと高等部の先輩達って仲悪いんですね。」
律が言った。
「天敵だよ。記事にするって追い回されてるんだ。追い回され始めてからもう随分経つけどどんどん加速してるもんね。」
理央が笑いながら言った。
「さて。これで全員。全員浴衣なんて良いね。雰囲気ある。」
「さっそくだけど新田さん、取材いいかしら?」
「良いわけないでしょう。先輩方は黙っててくださいよ。もう。カメラ没収したい。それから、浴衣なのにメモ帳とペン持ってるの変ですよ。歩く時ぶつかりますよ。」
ガヤガヤと一行は歩き出した。

