学校に着く前から、恋と宗介は律の話をしていた。


「1個下のあやかし狐ねえ。」


 宗介が考え顔で恋を見た。


「待てよ、でも僕も、律って名前になんか覚えがあるような気がする。どこで会ったかは分からないけど。その記憶は間違いじゃない気がする。確か一個下だったような。どこで会ったんだっけ?」

「だよねえ。どっかで1回みんなで会ってるよねえ。どこで会ったんだろ。」


 ガラガラと戸を開けて教室に入ると、美風はもう先に席に着いていた。


「樋山くん。」

「あ、新田さん」


 いつもの通り、美風は宗介を無視して恋に話しかける。


「向井律ねえ……」

 
 律の事を聞くと、美風は考え顔で顎に手を当てた。


「苗字に覚えはないけど、下の名前になんか覚えがあるな。律って珍しい名前じゃないけど。似たような名前いっぱいあるけど、なんとなく知ってる気がする。顔も覚えてて多分合ってると思う。それから、僕はなんかその人に冒険ってイメージがある。」

「あ、僕もだった。冒険。何だろうな。なんとなく普通じゃない状態で出会った気がするんだ。冒険……なんだけど……三人とも覚えがあって思い出せないなんて。樋山は恋に合わせてるだけじゃないの?」

「失礼な。ちゃんと根っからそう思ってる。でもどこで会ったかが思い出せない。おかしいな。記憶違いじゃないはずなんだけど。なんか新田さんと近づいて欲しくない奴だった気がする。」

「多分1回みんなでアスレチックとかで遊んだことがあるのかも。」

「いや、アスレチックっていうか……うーんなんかもっと異常で危機的な状況だった気がするんだけど……それってどこなんだろう?。少なくとも公園とか学校じゃないな。恋、律ってどんな奴?」

「どんな奴って?」

「僕は、あんまりいい奴じゃなかった気がする。なんとなく居てほしくない奴だった気がする。」


 そう言ってから美風が恋に微笑んで付け加えた。


「向井って人が今、年下のライバルに見えるからそう思うのかも。あやかし狐で新田さんの仲間だし。絶対そうだ。言っとくけど、なびいちゃ駄目だよ、新田さん。」

「うざ。それ僕の台詞。樋山は控えで、本命は僕なんだから。調子乗んな。樋山には関係ないだろ。」


 宗介は、とりあえず、律だろうが何だろうが僕以外の男子とあんまり仲良くしない事、としかめっ面で腕組みをして言った。